夏休みの時期は、昆虫に関連する写真展やイベント、そして展覧会が、いろいろなところで開かれています。
先日、東京ミッドタウンのサントリー美術館で開催されている特別展「虫めづる日本の人々」という展覧会に行って来ました。
展示されている作品は、江戸時代の物語や和歌、そして暮らしを彩る道具などの美術品に描かれた虫たちが紹介されています。繊細に描かれて躍動感ある虫たちを観て、虫たちをめでる精神が、現代に至るまで受け継がれて来ているのを知り、改めて虫たちと人間との関係を見つめるよい機会となりました。
インターネットなどの調査を見ても、日本人が愛する虫たちでは、カブトムシ、クワガタ、蝶、蛍、テントウムシなどが人気があるようです。時代が変わっても愛される虫は変わらないように思われます。
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この異常な暑さが続く中、黒須田川では「トンボ」が元気に飛び回っています。主にシオカラトンボとハグロトンボです。時々オニヤンマやアカトンボが仲間入りしています。ハグロトンボは、今が繁殖期で水草バイカモに卵を産みつけています。シオカラトンボは、雄と雌とが互いに追い回しあっています。
遊歩道の傍の草叢で、ほとんど気づかないほどの小さなトンボを、偶然見つけました。
飛び回るので撮影するのに苦労しましたが、やっと撮ることが出来ました。大きさは3.5cmほどで、青色がとても美しいトンボです。名前は「オオイトトンボ」といいます。
横浜市内の川や池で出会うことの少ないトンボだそうで、神奈川県では「絶滅危惧種ⅠA類」となっています。
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「トンボ」は、人気としては上位にある虫ではありませんが、詩や歌ではよく登場します。誰でも一度は歌ったことがある童謡「赤とんぼ」や北原白秋の「トンボの眼玉」という詩などは、よく知られています。
小さな生き物に暖かい眼差しを向ける叙情的な詩人・室生犀星(1889-1962)が、こんな「トンボ」の句を詠んでいます。
「とんぼらの羽の紋すいて秋の水」
『遠野集』室生犀星・日本詩人全集15・新潮社刊より
トンボの羽をよく見ると細かく美し模様となっています。
トンボの羽は、軽くて丈夫な翅脈という骨組みが、網の目のように張り巡ぐらされています。羽の先にある黒い部分は「縁紋」といい、飛んでいる時に生じる不規則な振動を調整する役目があるそうです。
ハグロトンボの羽は、ほとんど黒く見えるのですが、翅脈は美しい自然の造形を感じさせてくれます。
また室生犀星には、児童詩『動物詩集』室生犀星・2019年8月・龜鳴屋刊 があります。表紙には、詩に登場する虫や動物が刺繍で表現されています。
この詩集は、昭和18年の戦中に発行され、子供たちに語り掛けるような口調で書かれています。「虫34篇」「魚12篇」「貝3篇」「鳥11篇」「けもの12篇」「季節2篇」の74篇の詩が載っています。その中から「おにやんまのうた」という詩があります。
おにやんまのうた
目玉をひとまわりうごかすと
地球がぐるっとひとまわりする、
うしろに蝿のいることも
蟻がはうていることも
ちゃんとやんまはしっている。
おにやんま
とんぼの王様だ、
おなかの黄色い縞は
王さまのズボンの色だ、
目玉はとんぼの砲弾だ。
羽根はとんぼのおくるまだ。
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カワセミとハグロトンボは、どんな会話をしてるのだろうか。
時には、こんな光景も・・ヒラヒラと飛ぶハグロトンボを襲うシオカラトンボ。
虫たちの生きるための戦いが・・
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真夏の川辺での「とんぼの小景」です。すべて黒須田川で撮ったものです。
室生犀星の詩で、もう一つ好きな詩があります。「青き魚を釣る人」に載せられている「とんぼ釣り」です。散歩している自分の姿と重なって来たりします。
とんぼ釣り
けふもさみしくとんぼ釣り
ひげのある身がとんぼ釣り
このふるさとに飛行機がとぶといふ
その昼頃のとんぼ釣り
とんぼ釣りつつもの思えば
とんぼすうゐと逃れゆく
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