陶房の風景(15)

 2月5日、午後から降りだした雪は、私の住む地域で8cmほど積もりました。都心の高速道路は早めに閉鎖されました。そのため予定していた工房行を1週間先に延ばしました。

 1週間後は、2月とは思えない暖かさになりました。工房に入る細い小径に、突然「コジュケイ」が飛び出して来ました。

 いつも準備しているデジカメで・・コジュケイは、それほど驚いた様子もなく、私を見つめるように枯草の茂みに隠れてしまいました。

 庭の早咲の白梅が満開でした。

 いつもは3月初旬に咲き出す紅梅も、この暖かさで蕾が、もう膨らんでいました。

 花が散り終えたサザンカの垣根の中で・・

 大きな嘴をした「シメ」のようです。水を飲みに来たのでしょう。

 続いて来たのが「ジョウビタキ」・・工房周辺を縄張りにしています。冬は水溜まりが少なく、鳥たちにとって、庭の朝鮮唐津の花入れの水飲み場は役になっています。

 欅には・・「コゲラ」のようです。

 今年の冬の異常な暖かさには、囀りが華やかに聞こえるように思います。しかし庭の前の陸田は休耕地となり、落ち穂を求めてやって来る雀の鳴き声がほとんど聞こえないのは寂しいです。

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 朝方は少し冷え込みます。

 朝陽が当たらない日陰では、飛ばされないで残ったタンポポの綿毛に、溶け始めた霜が水玉のように輝いています。

 庭から100mほど離れた雑木林の傍で、ケーンケーンと甲高い声で鳴く雉。この声で起こされます。

 野々雉起給へとや雉の鳴

        一茶『七番日記』

 いつも番でいるのですが、雌の姿は見えません。

 雉子は、春の季語です。春は雄が「ケーンケーン」と妻を恋う鳴き声を放ちます。

 山の雉あれでも妻をよぶ声か

         一茶『七番日記』

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 書家・榊莫山(1926-2010)『書百話』ハルキ文庫・1997年12月刊 の中に「イロハの壷」というエッセイがあります。

 莫山は、陶器が好きで庭に窯を造る夢がありました。しかし大病を患い、その夢を捨てたそうです。そして信楽の窯元で焼いてもらったのが、この丸い壷です。この壷には竹のヘラを使って、カタカナでイロハニホヘト・・の文字がひっかいてあります。写真から字は、よく分かりませんが、機会があれば、実物を見たいと思います。

「土くさい肌と匂いのほのめくやつに惚れやすい、そして痩せたのよりもふっくらしたのが好きである」と陶器への愛執が書かれています。

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 私の作品は、温もりのある土味が表現できる登り窯で焼いたものが多いです。

 その中で一番大きな丸い壷(高さ:25.6cm・口径:11.5cm)です。

  

 土が炎の洗礼を受けて、再び蘇る土の景色は・・文字のようにも見えます。

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