本箱(15)

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 この絵は、私の部屋に飾ってあります。孫が小学6年生の時に描いた絵です。

 大都会の朝焼けの中に、どっしりと立つ一本の大きな木。木の幹は太く、枝は逞しく生命力に溢れています。

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 大きな枝に絡むように、色の輪が軽やかに飛び跳ねています。

 夜が明けるのを待つかのように・・

 巣立つ小鳥のように。新しい芽吹きのように。大きな手で大都会に住む人々を見守り、癒してくれるように。

 この絵を見て、3年ほど前に購入したイエナ・マリ著の『木のうた』ほるぷ出版刊)という絵本を思い出しました。

(注)イエラ・マリ(1931~2014)は、イタリア・ミラノ出身の絵本作家・デザイナー

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 以前にアンデルセンの『絵のない絵本』を紹介しましたが、この絵本には、文字がありません。

 一本の大きな木の四季の変化を追いながら、生命への愛が謳われています。美しい絵を眺めながら物語を想像します。時には言葉を発して、自分の言葉で本を読むことを楽しむことができるのです。

 絵本は子供が読む本と思っている人が多いと思いますが、子どもの絵本を大人が読んでも読みごたえがあります。読む人の年齢や環境によって受け止め方は異なりますし、人生の経験、知識などによって、子供の時に読んだ印象とは異なる深い意味を発見することもあります。

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 4月は、本に関連する記念日が多くあります。2日は「国際こどもの本の日」「図書記念日」・23日は「子供読書の日」・27日は「国立図書館開館記念日」・30日は「図書館記念日」などが挙げられます。

 4月27日から5月10日までは「第63回子供の読書週間」です。

 もう日にちは過ぎましたが、4月2日をまたがった2週間は、絵本文化の発展および教育や家庭に絵本の読書が一層定着することを目的とした「絵本週間」でした。

    *

 先日、亡兄の切手コレクションの中に、こんな切手がありました。

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 この浮世絵は、勝川春章作「風俗十二月図」です。

 1986年8月23日「第52回国際図書館連盟東京大会」を記念して発行されました。

 江戸時代の読書(読み聞かせ)する親子でしょうか。読み聞かせは、脳の発達を促し、子供の語彙や発想力を高め伸ばすために、日常行われていたのでしょう。

(注)勝川春章(1726-1793)江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の師匠。

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 読み聞かせの絵本として紹介されている本に『木はいいなあ』偕成社刊)があります。この絵本は、1957年にコルデコット賞を受賞しています。

(注)コルデコット賞とは、1938年から実施されている最も優れたアメリカの子供向けの絵本に与えられる賞。

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 内容は、ごくありふれた木のある日常を描いています。日常生活の中で木からの受ける恩恵や愉しみを味わって欲しいという願いを、明るく爽やかな水彩画で描かれています。

 この絵本は、初版が出てから60年以上が経過しています。今も読み継がれているのは、都市化が進み、木に触れる機会が少なくなりつつある中で、木を植えたり、触れる喜びを通して、木への共感と親しみを育む絵本です。

    *

 絵本の世界は広く、今回は「木」に纏わる絵本となりました。この本以外にも「木」についての絵本は多くありますが、その中で好きな「木」についての絵本は・・

 いせひでこ『大きな木のような人』講談社刊)です。

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 植物園のあちこちに現れ、植物園の先生や庭師をてこずらせる少女と植物学者と触れ合いを通して成長する少女。

 見開きいっぱいに描かれた樹木の水彩画。この絵本には68種の植物が描かれています。

 いせひでこさんの描く少女の表情や姿。特にひまわりの種を蒔いて、芽を出て双葉が広がるまでを見つめる少女の動きと表情が印象的です。

 

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 もう一冊は『木のすきなケイトさん』(BL出版刊)です。

 この本は実際にあった、木が大好きなケイトさんの話で、副題には「砂漠を緑の町にかえた ある女のひとののはなし」となっています。

 サンディエゴの砂漠のようなバルボア公園に、木を植えて緑の庭園に変えたという本当の話が描かれています。「木が好き」という気持ちで風景を変えたケイトさんの生きた方が、いろいろな環境問題を考えるメッセージとなって欲しいと思います。

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 はんの木のそれでも花のつもりかな

       一茶『七番日記』

 ハンノ木の花は、黒褐色の円柱形をして、尾状に垂れ下がって咲きます。一茶の言うように、花としては見えないのだろう。木で咲いている写真がなく、散った後のハンノ木の花です。

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 この道は家の近くにある散策道です。距離はそれほどありません。

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 高く伸びたハンノ木などが茂る緑のトンネル。

 日頃、平坦な道を歩くことが多い中、デコボコ道から伝わる土の感触は、年を重ねるとともに歩く愉しみの1つとなっています。

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 ハンノ木

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尺取虫

 この2~3日、20℃を超える日々が続き、初夏の陽気です。

 木の葉の色も深みを増してきました。

 木々の間から吹き抜ける爽やかな風。

 何もかもが生き生きとして眩しい。f:id:kanamankun:20210423171406j:plain

 散歩でよく通る、この木造の欄干には、小さな幼虫たちの世界が展開されていました。

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  柔らかい日差しに暖められた木の温もりが、心地よいのでしょうか。

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 どこに向かって歩いて行くのだろう。大小の幼虫が様々な動きをしています。

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 このような幼虫が苦手な人が多いようですが、ヒョコヒョコと可愛い歩き方を見ると癒されるという人もいるそうです。

 私も歩くのを止めて、ユニークな動きを眺めてしまいました。

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 このΩの型(U字型)に見える幼虫は「尺取り虫」です。

 尺取虫は、シャクガ科の蛾の幼虫です。

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 尺取り虫の種類は多く、色、大きさや模様も異なり、日本には800種類以上いるようです。

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 U字型のような歩き方をするのは、お腹の部分の足の退化によるものです。

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 名前の由来は、歩くときに屈伸する様子が、指で尺を取るのに似ていることから「尺取り虫」といわれます。

 英語では「inchworm」と言い、長さを表す言葉になっています。

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 尺取り虫を「芋虫」と言ったりします。「芋虫」は、毛虫以外の蝶や蛾の幼虫を言います。この中に尺取り虫が入ります。また「青虫」と呼ばれている幼虫も、この芋虫に入ります。

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 この尺取り虫の特徴は、敵から身を護るために擬態する習性があります。木や葉に化けるもの物が多く見られます。

 カメラを近づけると、棒立ちになって威嚇する幼虫もいたり、死んだふりなどをして動かない幼虫もいました。

 この茶色と黄色をした尺取り虫は、成虫になったら、どんな色、大きさや模様の蛾になるのだろうか。 

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 この団子が繋がったような幼虫は「ヨモギエダシャク」と思われます。

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 この姿を見ていると小さい時の遊び「いもむしころころ」が思い出されます。 

「いもむしころころ」は、江戸時から歌われてきたわらべうたで、子供たちの遊びの一つです。小さい時にやった経験があるのではないでしょうか。

 子どもが縦に並び、しゃがんで前の人の腰を掴み「いもむしころころ ひょうたんぽっりこ」と頭を振りながらノロノロ歩く遊びです。 

 こんな可愛い遊びがあるかと思えば「尺取り虫に体を測られると死ぬ」という俗信や民話もあるようです。

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 この黒い斑点のある1.5cmほどの尺取り虫、この橋の長さを測っているのだろうか。

 それとも餌か塒を求めて歩き続けているのだろうか。

 ヒヨドリやシジュウガラに見つからないように・・

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 あの虫に尺を取らるる柱哉

         一茶『八番日記』

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 宮本武蔵の墨絵に『枯木鳴鵙図』があるそうです。

 絵を見ていませんが、細い枯れ木の上に鵙が止まっている、そこに向かって登る?一匹の毛虫が描かれているそうですが。この絵の解釈は・・

 機会があれば、この墨絵を見てみたいと思います。

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 10年ほど前に制作した花入ですが、尺蠖耳かな?

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 焼締耳付花入

     高さ:18.7cm・重さ:920g

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 桜の花も散り、若葉が美しい季節に変わって来ました。

 先日、「柿生の里の遊歩道」から「早野聖地公園」を歩きました。

 ハンノ木から、眩い緑の光が降りそそぎ、鳥たちの囀りが、木々に木霊して聞こえます。鳥たちの姿は若葉の中に隠れて見つかりません。

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 落ち葉が積もった山道を下ると「上池」。この池ではカワセミが餌を獲っているのを、よく見かけますが、水が少し濁っているようです。

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 日本では、四季を通して様々な風が吹きます。

 春の風の呼び方も10種類ほどあるそうです。晴れた暖かい春の日に、草木の間を吹き渡る風のことを「光風(こうふう)」と呼ぶそうです。

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 一つ葉の中より吹や春の風

         一茶『自筆本』

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 枕木の遊歩道は、歩きやすいように整備されています。

 草叢に小さい赤い虫が、陽を浴びるように、じっとしているのを見つけました。

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 「カクムネベニボタル」といいます。体長は8~12mmほどで、ホタルの名前が付いていますが、光らないそうです。

 風道を塞ぐ枝より蛍哉

        一茶『文化句帖』

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 雑木林を抜けると畑が広がっています。大麦かな・・

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 公園の入口にある「林ケ谷池」。

 昨年10月に来た時は、水量はほとんどありませんでした。

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 「アオサギ」と「チュウサギ」が、少ない水の中の餌を漁っていました。

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 今は水が満ち溢れています。近くの農地に 使われのでしょう。

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 その水面に浮かんでいたかと思うと、アッという間に潜り消えてしまう鳥がいました。

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 そして予想もしないところに、ポッカリと浮かび上がります。

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 潜水の名手「鳰(カイツブリ)」でした。

 全長約26cmほどで、カイツブリ科の中でも一番小さい鳥です。

 潜水している時間は、最も長い時で25秒も潜って餌を獲るそうです。

 カモの仲間(アカハジロに似ている?)と思っていましたが、まったく関係のない種類でした。

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 「鳰(にほ・にお)」は、カイツブリの古名です。万葉集などで詠まれている鳥で、昔から知られていました。 その名前の語源は、よく分からないそうで、 カイツブリと呼ばれ始めたのは、室町時代に入ってからだそうです。

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 カイツブリは、葭原の中などの水面に巣を作ります。水草などで皿の形をした浮いた巣です。

 近くに葦らしい茂みがありましたが、その中に巣があるのだろうか。

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 鳰の巣の一本草のたのみ哉

        一茶『七番日記』

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 私の傍に突然に現れ、近づくと危険を察知したのか、潜らずに水面を凄い速さで逃げていきました。

 雛の待つ浮巣に向かって全速力・・その泳ぎの速さには驚きました。

 「カイツブリ」は、水上で生活していて、ほとんど歩かないそうで、足は櫂の役割をしています。 

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 「カイツブリ」は、環境省レッドデータブックによると「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定されています。東京都は「準絶滅危惧」種になっています。

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  追伸  2021-4-23)

 先日、林谷ケ池に行ってみたら、カイツブリの番いが、一生懸命に浮巣を作っていました。

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 カイツブリの向こうに見える盛り上がった草が浮巣のようです。

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 口にくわえて浮き草を運びます。

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 夫婦で浮巣の周りを見守ります。

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 天敵が現れたのか、浮き巣に被さるように守ります。

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 その後、安全を確認しているようにも見えます。

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 敵は現れず一先ず安心。餌を求めて浮巣から離れました。

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句碑散歩(18)

  先日、茨城県つくば市沼田にある一茶の句碑2基を訪ねました。

 3月ですが、季節外れの暖かな花曇りの日でした。

 常磐自動車道の土浦北ICを降りて、国道125号線を下妻方面に走りました。

 車中から見える筑波山は、春霞で少しぼやけて見えました。

 かりそめに出て霞むやつくば山

        一茶『文化句帖』

 山桜は満開を過ぎていましたが、山裾は霞の中に淡い紫色をしていました。

筑波山」は「紫峰」「紫山」とも呼ばれています。

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 芭蕉は『鹿島紀行(鹿島詣)』の中で「雪は申さずまずむらさきのつくばかな」という服部嵐雪(1654-1707)の句を引用して、筑波山の美しさを誉め称えています。

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 筑波山の標高877mで、それほど高くはありません。山は男体山(841m)と女体山(877m)の2つの峰からなっています。

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 国道125号線から県道14号線に入り、そして県道42号線を筑波山方面に走りました。

 目指していた「ガマ公園」は、移設されたと聞いていましたので、筑波山駐在所の前で停車し、場所を確認しようとすると・・その目の前に「ガマ公園」の石の碑がありました。

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 この場所は、筑波神社の大鳥居に行く途中にある駐車場で、入口の所に一茶の句碑がありました。

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「がま公園」は、以前は筑波山梅林の西側に隣接してありましたが、2007年に閉園となり、この地に移設されました。

 雲を吐く口つきしたり引蟇

        『おらが春』より

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 以前のガマ公園では、この句碑の隣に大きな石のガマが並んでいたようです。

 そのガマは、この場所には移設されていませんでした。

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 このヒキガエルは、私の工房の軒下で見つけた「ニホンヒキガエル」です。

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 「筑波山のガマ」といえば「ガマの油売りの口上」はよく知られています。

「サアーサ、お立合い・・」と有名なセリフ・・私も小さい時に路上などで、この口上を聞いた記憶があります。

 霊山・筑波山でしか捕獲できないという「四六のガマ」とは・・足の指の数のことで、前足の指が四本、後ろ足の指が六本、合わせて四六ガマ」と、足の指の本数が違うそうです。

 よく見かけるアマガエルは、手の指が4本、足の指は5本です。

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 ここからは、北條方面の長閑な田園風景が眺められました。f:id:kanamankun:20210404165643j:plain

 句碑の正面には筑波山が迫って来ています。

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 この句碑から少し下り、左に曲がり狭い県道139号線を走り、突き当りが西山通りです。舗装されたなだらかな登坂で、その先には筑波山が見えます。

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 ここで車を止めて歩きました。傍には正岡子規の句碑がありました。

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 赤蜻蛉筑波に雲もなかりけり

 この句は明治27年に、東京から筑波山を眺めて詠んだと言われています。

 子規は『水戸紀行』の中で「つくば山」について数句詠んでいます。

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 この西山通りを少し下ると「つくば道」と交わる三叉路に出ます。ここから急な坂道(舗装されている)を、筑波神社の方向に10mほど登った所に一茶の句碑がありました。

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  残念ながら水仙は枯れていましたが、ショカッサイが彩ってくれていました。後方に見えるのが筑波山です。

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 一茶は、水仙が咲いている頃に、この道を登ったのだろうか。

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 水仙や垣にゆひ込むつくば山

  この句は『自筆句集』の中にあります。

 『七番日記』では

 冬枯や垣にゆひ込むつくば山

 となっています。 

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 筑波山は、古くから数多くの和歌や俳句にうたわれています。

 往時は、晴れていれば関東平野から美しい筑波山を望むことができたのでしょう。

 春立や見古したれど筑波山

            『七番日記』

 一茶は下総から守谷、そして房総方面に、よく旅をしています。

 「筑波山」は、いつも見ている、もう見古しているように思うが・・、春が来れば、やっぱり美しい山だと詠んでいます。

 今回は、車での旅となりましたが、次は往時の風景を忍ばせてくれる筑波山神社の参詣道「つくば道」を歩いてみたいと思います。

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 常磐道から鉾田の工房に向かう時は、いつも筑波山を眺めて走ります。天候や季節によって筑波山は、いろいろな表情と色を見せてくれます。

 ある時は田圃の畦道から、ある時は車中から眺めた筑波山を紹介します。

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 梅咲くや一日ごろのつくば山

            『七番日記』

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 畠打の顔から暮るるつくば山

            『化五六句記』

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 四五月やかすみ盛りのつくば山

             『七番日記』

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 草餅を先吹にけり筑波東風

           『七番日記』

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 よしきりや空の小隅のつくば山

             『七番日記』

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 早乙女の尻につかへる筑波哉

              『句稿消息』

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 「三昧塚古墳」(行方市)から眺めた筑波山

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 夏の夜や枕にしたる筑波山

          『遺稿』より

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 手前は霞ケ浦

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庭に来た鳥(3)

 工房の庭の山桜も、今が満開です。花蜜を求めてメジロがよく来ます。

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 先日、1年ぶりに素焼きをしました。今回で61回目になります。

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 素焼きの合間を縫って、工房の前の垣根の草取りをしました。

 4年前に一部を伐採した栃の木でトントンと音がしました。そして鶯の鳴き声に混じって、時々ギーギーと、今までに聞いたことのない鳴き声が聞こえて来ます。不審に思って木を調べるとコゲラ(小啄木鳥)が巣穴を作っていました。

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 コゲラは、日本に生息するキツツキの中で、最も小さい鳥です。大きさはスズメほどです。本来は山地の林に生息しますが、近年は市街地でも見られます。

 私たちは、この鳥を「啄木鳥(キツツキ)」と呼んでいますが、「キツツキ」とは、キツツキ科の鳥の総称のことです。

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  工房の周りは雑木林ですが、庭の木で見つけたのは始めてです。

  この木は工房の傍にあります。室内からその様子を眺めることが出来るので、素焼きをしながら観察しました。

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  嘴で木を強く叩くトントンという音は「ドラミング」といいます。コゲラのドラミングは、音が小さいので騒がしいと聞こえないこともあります。

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 キツツキが木を叩く(つつく)のは、木の中の昆虫を食べるため、巣穴にするため、そして仲間とのコミュニケーションを図るためでもあります。

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 ギーギーという鳴き声は、縄張りの主張や家族の確認をするためだそうです。

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 掘られた穴は綺麗な円形になっています。体の大きさに合わせて掘っていく、その技術には驚きます。

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 足の指には前後二本ずつ、鋭い爪があり、それで樹幹に垂直に止まることができます。

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 鋭い嘴。この嘴で穴を掘っていく。嘴はかなり強固のようです。

 切り取る木の量は少ないので根気のいる作業です。

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 何日かかったか分かりませんが、ここまで体が入っています。

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 コゲラは警戒心が強く、穴を掘りながらも、周りをキョロキョロと見ます。

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 穴から離れて周囲を見張ります。

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 今日も一日中、飽きもせずコツコツと穴を堀り続けました。脳震盪を起こさないのだろうか。

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 とうとう夕方近くまで観察してしまいました。

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 啄木鳥や日のかたぶくを見ては又

         一茶『発句鈔追加』

 一茶は啄木鳥を秋の季語として詠んでいます。この鳥は季節の特色はない留鳥です。秋の季語に入っているのは疑問が残ります。

 『野鳥歳時記』(山谷春潮著・冨山房百科文庫・1995年5月刊)では、無季の鳥として扱っています。

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 陽が沈む前に、素焼きは無事に終わりました。

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花見の日

 横浜のサクラの開花は3月17日でした。昨年よりも1日早く咲きました。

 花見は、古来から日本人が楽しみにしている春の行事の一つです。今年は、コロナ禍の影響で、自粛や観賞場所の制限などが行われ、ゆっくりと花見気分にはなれそうもありません。

 湯浅浩史さんの『植物と行事~その由来を推理する(朝日選書・1993年7月刊)という本を読むと、かっては「花見の日」があったそうです。

「3月上巳(3日)、卯月(4月)8日などである。うち3月3日は桃の節句にとって代わられた。4月8日も釈迦の誕生日と重なっているため、・・花祭りに置き換えられた。こうして花見の日は特定の日付を失い、それぞれの地方のサクラの開花に合わせた自由な設定にかわってしまった。」

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 それぞれの地方の開花に合わせて、桜の名所が紹介されていますが、我が家の近くの黒須田川のサクラもチラホラと咲き始めました。

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 黒須田川の「どうだん橋」から「おおむら橋」の間には、30本のソメイヨシノが植えられています。

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 散歩する人も自然に足が止まり、開いたばかりの花を眺め、ほほ笑む顔が増えてきました。

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 遊歩道の反対側の真紅のヤブツバキ

 まだまだ主役のように頑張っています。

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 花見の頃になると、恋も始まります。

 木陰では、カルガモが・・

 じゃれあっているようですが求愛行動です。

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 時には、雌の体が完全に水の中に沈んでしまいました。

 過激な愛情表現ですが、その動きは短時間で終わり、あっさりと別れてしまいました。

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 猫の恋打切棒に別れけり

        一茶『七番日記』

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 3月27日は「さくらの日」だと知りました。3(さ)*9(く)=27の語呂合わせのようです。1992年に制定されました。

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 3月27日は土曜日です。黒須田川のソメイヨシノも、この頃には満開になり「花見の日」になるのでしょう。

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春の川辺・エトセトラ

 横浜の桜の開花予想日は、3月16日頃だと言われています。昨年より早く開花するようです。

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 今日は、暖かい日差しの中、いつもの黒須田川に沿って歩きました。

 茶色い色の多い中で、一番目に惹くのは、真白なサギです。

 今年は「コサギ」よりも「チュウサギ」を多く見かけます。

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 長い嘴で小さな泥鰌?を捉える。ゆっくりとした動きをしながら、捕らえる時の速さ。その瞬発力の見事さは、見ていても飽きません。

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 自生した「蕗の薹」です。

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 蕗の薹には、雄雌があります。雄雌異株なので、花弁の形も違います。そして頭状花が白いのが雌で、淡黄色が雄です。雄の方が花粉を作るので黄色いそうです。

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 鳩は一夫一婦の鳥です。愛情表現には、2つあるそうです。
1つは、お互いに首のあたりをつつきあう行動です。

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 もう一つは「キス」をするそうです。信じられませんが、嘴を相手の嘴に突っ込むそうです。

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 私の歩く遊歩道で唯一の梅の木。今が真っ盛り。

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メジロ」を見つけました。 花の蜜に夢中で、カメラを近づけても逃げようとしません。

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 我春も上々吉よ梅の花

       一茶『七番日記』

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 川岸から川岸へ飛び回って遊ぶ「シジュウカラ

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 ブロック壁に、こんな姿勢で・・滑らないでしがみつく足の力。

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 堰の傍に2匹のカワセミ

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 雄のカワセミは、水面近くの枝から小魚を狙っています。

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 雌のカワセミは、近くの昇降用の鉄階段で見守っています。

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 餌は獲れずに、雌のもとに戻って来ました。

 雛段に並んだ2匹(上が雄、下が雌) 

 1週間遅れのカワセミの「夫婦雛」となりました。

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 餌を獲ると、夫婦一緒に逃げ去りました。

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 開花した雪柳の下では「マガモ」が餌を獲っています。水深があるようで、少々恥ずかしい姿で・・

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 そこに現れたのが「カワウ」です。「カルガモ」たちは、すぐに場所を譲ります。

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 それを木の上で眺める「ヒヨドリ」・・何を相談しているのだろう。

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 近くの木の下では「スズメ」が水浴びを・・

 雀の子川の中迄親をよぶ

      一茶『八番日記』

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 動きの忙しい「キセキレイ」ですが、のんびり日向ぼっこをしながら毛づくろい。

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 一方「ハクセキレイ」は元気に動き回っています。この位の距離の飛び石なら、羽を出さないでも飛べます。

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  一日の散歩で、こんなに多くの鳥たちに出会うのは珍しです。

 これまでに知らなかった鳥たちの行動を見られるのも、歩く愉しみです。

 黒須田川の風景は、まだ寒々しい彩ですが、川べりや水の中では、小さな生きものたちが、もう動き始めています。

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 川床では、美しい紫色の花「ショカッサイ」が・・

 まかり出花の三月大根哉

        一茶『発句題叢』

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