樹皮

 半月ほど前までは美しく黄葉していた「イチョウ」の木。今は小枝が澄んだ青空を突き刺すように見えます。

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 ヒヨドリのいるのも、よく分かるようになりました。

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 私は幸田文さんの随筆が好きで、よく読みます。多くの随筆の中で『木』新潮文庫という随筆があります。

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 そのなかに「木のきもの」という題があります。長年着物を着てこられた幸田文さんは、和服の常用者らしい樹木の見方を描いています。

「杉はたて縞またはたてしぼ、松は亀甲くずし、ひめしゃらは無地の着物と思う」

 そして「いちょうはしぼ立っている」と、樹皮を着物の柄に例えて表現されています。

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 この木はイチョウの木です。美しい「しぼ」が特徴です。「しぼ」とは「皺」のことです。

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 樹皮は、木の幹の表面を覆い保護するために作られます。そして樹皮は、もともと死んだ組織のコルク層の集まりで、最後は剥がれて落ちてしまいます。

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 樹皮は樹木の種類によって特徴があります。

 「ツルツルした」「滑らかな」「縦に剥がれる」「横に剥がれる」「ゴツゴツひび割れる」「コルク層の発達した」「刺のある」「鱗片状に剥げる」「赤い」など、いろいろな表情をしています。

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 イチョウの樹皮は「皺」のように見えますが、模様のような樹皮にも見えます。

 樹木では、花や葉っぱが注目されがちです。しかし華やかさのなくなる冬の散歩には樹皮のいろいろな表情を愉しみたいものです。

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 12月21日は、ジャン=アンリ・ファーブルが生れた日です。

 ファーブルと言えば『昆虫記』がすぐに浮かびます。しかし余り知られていませんが『植物記』も書いています。『昆虫記』は1879年に出版、『植物記』はそれより10年早い1867年に出版されています。

 私の本棚には、『ファーブル植物記』平凡社刊)と『植物のはなし』岩波書店刊)の翻訳本があります。「樹皮」については大きな違いはありません。『植物のはなし』の方には、花と実の話が加わっています。

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 この本は、子どもを対象に書かれた科学の本ですが、最初から刺胞動物の「ヒドラ」から始まり、植物の基本的な仕組みを分かりやすく書かれています。植物の生き方を人間の生活に譬えたり、植物から見た人間の生き様を風刺したり、比喩的な表現も多くあります。例えば「樹皮」については

「樹木は自分自身のためだけ衣服をつけ、私たちはいくぶん、いや、むしろ多くの場合、他人のために装う。私たちには、見られるということがだいじなのだ」

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 子ども向けの本となっていますが、大人が読んでも面白く、植物たちの驚くべき知恵や生き物の神秘を教えてくれる本でもあります。

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「ほんとに植物というものをよく知りたいと思うなら、動物についてしらべる方がむしろ、手っとり早いと思うのだ」

『ファーブルの言葉』平野威雄訳・興陽館発行より

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