正岡子規は『病状六尺』岩波文庫刊 の中で「翡翠」について10首ほど詠んでいます。
「柳に翡翠といふのを題に戯れに俳句十首を作って見た」「一時の戯れに過ぎないやうであるが、実際にやって見ると句法の研究などには最も善き手段であるといふ事が分かった」と書いています。その10首とは
翡翠の魚を覗ふ柳かな
翡翠をかくす柳の茂りかな
翡翠の来る柳を愛すかな
翡翠や池をめぐりて皆柳
翡翠の来ぬ日柳の嵐かな
翡翠も鷺も来て居る柳かな
柳伐って翡翠終に来ずなりぬ
翡翠の足場を選ぶ柳かな
翡翠の去って柳の夕日かな
翡翠の飛んでしまひし柳かな
病床の子規に、お見舞いの客が持って来たのであろう「柳と翡翠の図」を見て詠んだのでしょうか。俳句に「写生」を提唱した子規、詠まれた一つ一つの情景が、私が散歩で眺める実景に、よく似ているのに驚きました。
また「柳と翡翠」の取り合わせについては、今は見ることがほとんどない景色ですが、明治時代には、見ることが出来た景色かも知れません。8月に黒須田川で、垂れた木の枝に止まっている、こんなカワセミを見ました。
子規が27歳の時にも「川蝉や柳静かに池深し」(子規句集・岩波文庫)という句を詠んでいます。『仰臥漫録』岩波文庫 にも『病状六尺』と重複した句がありますが「柳」とは関係のない翡翠を詠んだ句もあります。
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黒須田川に生息するカワセミを撮り始めて4年が経ちます。ほとんどが散歩の途中に偶然出逢ったカワセミです。都会の中の小さな川に住むカワセミを、度々紹介して来ましたが、この1年間の「カワセミのいる景色」をまとめました。
【1月】
初詣の帰りに出逢ったカワセミ。おせちは食べ終わっただろうに・・もう次の料理を狙っているらしい。
【2月】
2月10日、朝から降りだした雪。積雪は少なかったのですが、食べ物はお預けかな。
【3月】
桜の花と一緒に撮れる唯一の場所は「にしき橋」。天敵からの隠れるために、この場所によく逃げ込みます。
この橋の付近は、水浴びの場所でもあります。
【4月】
暖かくなり川岸に自生した菜の花、その下にいる小魚を狙っているようです。
【5月】
黒須田川は、水量が少なく流れが緩やかです。川面に写る新緑が大変美しい。
【6月】
草木の緑に覆われた黒須田川。夏が近づくと川の中の小魚の動きも活発になります。時々飛び跳ねて銀色に光ります。
毛繕いなのかな?珍しいポーズです。カワセミの首は、柔軟な筋肉をしているようです。
【7月】
飛んで来て急に止まる休憩の石!? でもすぐに飛び去るので撮影チャンスを逃がすと、度々見られる景色ではありません
【8月】
30cmほど浅瀬の獲物を狙ってホバリング。飛び込む音も堰の水音に消されてしまいます。その様子を上から眺められるのは、黒須田川の特徴です。
【9月】
都会を流れる川で見られるカワセミのファンタジックな世界です。
宝石のように輝いています。木漏れ日の悪戯です。
【10月】
夕陽を眺めるカワセミのつがい。何を見つめているのだろう。私は「カー君(雄)」「ミーちゃん(雌)」と名づけました。
【11月】
秋から冬にかけて太陽の角度が低くなります。カワセミには、水中の中の動きが良く見えます。
【12月】
冬らしい寒々とした黒須田川ですが、穏やかな師走です。
いつもは反対側の日陰の草の茎に止まっているカワセミ。この日は、枯れた葦の先端に止まっています。この位置からの方が狙い易いのかな。それとも日向ぼっこかな。
黒須田川は「オイカワ」が多く棲息していて、カワセミの最良の好物となっています。
今回、登場した2kmほどの黒須田川をテリトリーにしているカワセミのつがいを紹介します。「さつき橋」付近から下流をテリトリーにしているのが「ミーちゃん(雌)」
「さつき橋」付近から上流をテリトリーにしているのが「カー君(雄)」です。
今年は、こんな景色をよく見掛けました。
来年もこの景色が続いて欲しいと思います。
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