小鳥

f:id:kanamankun:20211107124922j:plain

 秋の天小鳥ひとつのひろがりぬ

         一茶『化五六句記』

 一茶の句の中で好きな句の一つです。

 澄んだ秋の大空に向かって鳥が飛び立っていった。

 「立冬」も過ぎ、冬の訪れも・・渡り鳥だろうか。

 最近、「小鳥」を描いた本を3冊読みました。

 1冊目は『ことり』小川洋子著・朝日文庫・2016年刊)です。

f:id:kanamankun:20210813100409j:plain

 この物語は、小鳥の囀りを理解する兄と、兄の言葉を唯一理解できる弟。この二人が支えあって慎ましく生きている姿が描かれています。

 一羽の小鳥が残された鳥籠を抱いて亡くなった「小鳥の小父さん」から話は展開されます。小鳥を愛し小鳥に愛される兄弟の出会いと別れ。とても静かで哀しく切ない物語を、小川洋子さんの美しい言葉で綴られています。最後の小父さんとメジロとの出会いは救われます。

 先日、黒須田川を散歩していると、ピラカンサの赤い実を食べている2羽の「メジロ」を見つけました。姿だけで雄雌は見分け難いのですが、番だろうと思います。しかしひょっとすると物語の兄弟かも・・私は想像してしまいました。

(注)ここで登場する小鳥たちは、すべて黒須田川周辺で撮影したものです。

f:id:kanamankun:20211107125154j:plain

   *

 2冊目は『ぼくの小鳥ちゃん』江國香織著(新潮文庫・平成14年刊)です。

f:id:kanamankun:20210813100225j:plain

 この物語は、雪の朝、部屋に飛び込んできた白い小鳥。この小鳥ちゃんと僕と彼女との日常生活が始まります。小鳥ちゃんが人格を持ったように話し、微笑ましい三角関係の生活です。こんなに楽しく鳥と会話できれば楽しいだろうと思います。大人の童話のようで不思議なお話です。 荒井良二(イラストレーター)の温かみのある挿絵もいいですね。

      *

 我が家のベランダには、「シジュウカラ」が来ます。

f:id:kanamankun:20211109095350j:plain

 「シジュウカラは、大変に賢いらしく、「文法を操って初めて聞いた鳴き声の組み合わせを正しく意味を理解する」という最近の研究成果を新聞などで読んだことがあります。まだ夢物語ですが「シジュウカラ語」で、シジュウカラと話が出来れば楽しいだろう。身近な野鳥との新しいコミュニケーションが生れるかも・・

f:id:kanamankun:20210813101912j:plain

   *

 3冊目は『鳥が教えてくれた空』三宮麻由子著(集英社文庫・2004年刊)です。

f:id:kanamankun:20210813100601j:plain

 著者は、小さい時に視力を失いました。光を失った少女が鳥と出会い、その鳴き声によって大自然の生き物たちに生かされていることを体感し、前向きに生きる日々を素直に綴られたエッセィです。

 「深い癒しという言葉を最初にしみじみと感じたのは、野鳥と出会ったときだったと思う」と最初の章に書かれています。そして「・・大自然というものを肌で感じさせてくれたのだ。・・」野鳥との出会いが、自分の世界観をひっくり返してくれたと綴っています。

f:id:kanamankun:20211108183827j:plain

 多くの偉大な発見をくれた鳥は、身近にいる「スズメ」です。「すずめ」の鳴き声によっていろいろな生活情報「時間」「天気」、そして「景色」まで教えてくれました。

f:id:kanamankun:20211108190137j:plain

 スズメの仲間は、世界で26種類、日本では「スズメ」と「ニュウナイスズメ」2種類が棲息しています。日常よく見かけるのは「スズメ」です。

f:id:kanamankun:20211109095627j:plain

 このスズメの鳴き声は多彩です。どう表現(聞きなし)して書いたのだろう。

 国松俊英著『スズメの大研究』(PHP研究所・2004年刊)によると、平安時代の本には「シウシウ」と書いてあるそうです。江戸時代頃になると「チウチウ」「チーチー」。そして今は「チュンチュン」と書きます。これが一般的になったのは、大正時代、葛原しげる(童謡作家・1886-1961)が「すずめ」という童謡をつくりました。その歌詞には「チュンチュン」と書かれています。以後、この鳴き方を使うようになったそうです。

 童謡「すずめの学校」は、よく知っていましたが、「すずめ」という童謡があったことを初めて知りました。

f:id:kanamankun:20211109095559j:plain

 この3冊の本には、身近にいる小さな野鳥との交わりが描かれていました。三宮麻由子さんは「鳥は神の箸休め」と言っていますが、小さな鳥と人間が出会ったことで、人間が得たものは、とても大きいものだと思います。

     *

 浮世とてあんな小鳥も巣を作る

        一茶『八番日記』

     *

     *