この浮世絵は葛飾北斎が描いた「藤・鶺鴒」画です。(北斎美術館第1巻花鳥画・集英社刊から引用)藤の花と一緒に「鶺鴒」が描かれています。
鳥類学者・内田清之助(1884-1975)の本『浮世絵版画の鳥』(芸艸堂・昭和49年5月刊)によると、この鶺鴒は「多分、ホウジロセキレイを描いたものとおもわれるが・・」と書かれています。
通常、よく見るセキレイは「ハクセキレイ」「キセキレイ」「セグロセキレイ」です。この「ホオジロセキレイ」は「ハクセキレイ」によく似ていますが違いがあります。それは顔にある「過眼線」で、この線がないのが「ホオジロセキレイ」です。
(注)「過眼線」とは、鳥の嘴の付け根から眼を横切って走る線のこと。
宮沢賢治の短編小説『皮トランク』の中で、母の病気で帰郷した主人公が船着き場で見たセキレイを描いています。「もう夕方でしたが、雲が縞をつくってしずかに東の方へ流れ白と黒とのぶちになったせきれいが水銀のやうな水とすれすれに飛びました。・・」(宮沢賢治全集6・ちくま文庫)より
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黒須田川で見かけるセキレイは、頭から背にかけてブチになっています。
このような頭から背に向けて灰色のセキレイも見られました。
飛んでいる時の黒白も美しいですが、風切羽をよく見ると全体が黒白ではなく、先のほうが「茶色」となっています。
水浴びをするハクセキレイ。
あまり見ることのできない風切羽の裏側を見せてくれました。
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セキレイは、日本の文献の中では最初に登場する鳥です。日本書紀には、日本神話の国産みの伝承の一つとして知られています。
セキレイは、瘦せ型の美しい姿で、尾は体躯の割には長く、この尾を上下に動かす習性があります。そのせいか「イシタタキ」「ニワタタキ」「シリタタキ」「トツギオシエドリ」「ニハクナブリ」「カワラスズメ」「ハマスズメ」「イモセドリ」など別名(異名)が多くあります。
鶺鴒がたたいて見たる南瓜哉
一茶『八番日記』
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二十四節気の「白露」が過ぎ、9月12日頃からは「鶺鴒鳴」にあたります。
セキレイは、今は四季を通じて見られる鳥です。この「鶺鴒鳴く」の時期は、秋の虫たちが鳴きだす頃とも言えます。
黒須田川では、「ハクセキレイ」と「キセキレイ」が主に飛んできますが「セグロセキレイ」は、まだ見ていません。
「チチッ」「チチチッ」と鳴きながら飛ぶ「ハクセキレイ」の姿を追ってみました。
長い尾を振りながら、よく動き、飛び回るセキレイ・・一茶には・・
鶺鴒やゆるがしてみろふじの山
一茶『七番日記』
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