昨年、本焼きの最中に、母屋と工房を繋ぐ通路のガラス窓に、何かがぶつかる音がしました。カメラを向けた時には、飛び立つ瞬間でした。
母屋と工房を繋ぐ通路は、コの字のように凹んでいて、ガラス窓には空が映り、時々鳥が空と間違えてぶつかることがあります。
最初は、雉の雌かなと思ったのですが、調べるとキジ科の鳥「コジュケイ(小綬鶏)」でした。この鳥は、何かで驚くと樹上に飛び上がったり、林間を低く飛んで逃げる行動をします。
この鳥は、1919年、神奈川県で初めて放鳥されて以来、平地から山林と棲息域が広がっているそうです。この「小綬鶏」の「綬」とは、勲章に付けられた布製の帯のことで、胸の模様が綬をつけたように見えるから付けられました。
また鳴き声に特徴があり、普段は「コココ・・」。繁殖期には「ピィッググィピィッググィ」と甲高く鳴き、その声が「ちょっと来い」「ちょっと来い」と「聞きなす」ことはよく知られています。
「聞きなす」とは、動物の鳴き声など、主に鳥の囀りを、人間の意味ある言葉やフレーズに当てはめて思い込むことを言います。
鳥鳴くやとしより迄も来い来いと
一茶 『文政句帖』
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今年の三が日は、暖かな日が続きました。
今日も朝から、家の前の垣根のサザンカの花に「チィーチィー」と、「メジロ」が蜜を求めて飛んで来ます。誘われるように見え隠れする「メジロ」を追っています。
さく花に拙きわれを呼子鳥
一茶 『題葉集』
(注)「呼子鳥」の意味は、鳴き声が人を呼ぶように聞こえるところからそう呼びます。季語は春です。
小鳥が鳴く(囀る)のは繁殖期の雄ですが、自分の縄張りの主張と雌を呼び寄せるためです。ほかに危険を仲間に知らせたり、幼鳥が親鳥の注意を引くために囀ります。
鳥の囀りについて、その生態や習性を知るために『小鳥はなぜ歌うのか』(小西正一著・岩波新書1994年5月刊)を参考にしました。
ほとんどの小鳥は15種類くらいの音を出すそうです。日本では古くから鳴き声を「囀り(歌)」と「地鳴き」に区別してきました。
囀りは、複雑で長く、短くても1秒ほどです。鳥は外界からの刺激がなくとも数秒に一回、周期的に鳴きます。
地鳴きは、雄雌ともに鳴きます。仲間との連絡用の声で短く簡単な音声です。縄張りに関係なく、外界の特別な刺激に対して鳴きます。
「ヒッヒッ」と銀杏の木で鳴いているのは、春を告げ鳥「ウグイス」では・・
残念ながら羽の白い斑点から「ジョウビタキ」かな?
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黒須田川では「ツッツッ」と高い声で鳴きながら、川に入って餌を漁っているのは「ハクセキレイ」です。
鳴き声の高低は、森の鳥と野原の鳥では周波数が違うそうです。森に住む鳥は低周波、都会や野原に住む鳥は高周波で囀るそうです。森では低周波は木にぶつかるので伝達が悪く、外敵から場所を知られない特徴があります。
都会や野原では、どうして低周波で鳴かないのかというと、人家の多いところなどは騒音が多く、低い音では仲間への連絡や外敵の襲来などを知らせるには伝わり難く、高い鳴き声の方が伝わり易いのです。これも鳥たちの生きる知恵なのでしょうか。
水流れ鳥鳴き柳二三尺
一茶『日々草』
最近、カワセミを見ることが多くなりました、ねぐらを変えたのだろうか?
そこえ「チィ」「チッツー」と鳴きながら、水面1mくらいの所を一直線に飛んで来ました。この鳴き声は獲物を見つけたのかな。
この『小鳥はなぜ歌うのか』という本から、日頃なんとなく聞いていた小鳥たちの囀りの世界がよく分かりました。特に鳥にも方言があること、幼鳥が囀りを覚える方法など・・・
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草花文茶碗
焼き物にも貫入という鳴き声があります。
貫入は作品が窯から出した時に、空気に触れて素地と釉の膨張率の違いで器の釉に細かい罅がはいります。その時キーンキーンという小さな音がします。私はこの音が好きで、聞きたいために窯内の温度が80℃前後の時に窯を開けます。
窯ひらき薄氷はじく陶の音
耳を澄まさないと聞けない小さい繊細な音です。作品によっては半日近く、この巣立っていく音がしています。
~新たな生命の誕生の喜び声~これも「聞きなす」でしょうか。
塊も心おくかよ巣立鳥
一茶『文化句帖』
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