アキアカネ

 ウォーキングするには、心地よい気候になってきました。

 爽やかな秋風に乗ってキンモクセイの甘い香りが匂って来ます。

 お彼岸を過ぎる頃までは、歩く足元に纏わりつくように飛んでいたハグロトンボも知らない間に数が減って来ました。

 水草に産卵を終えたのでしょうか・・飛び方も弱々しくなっていました。

 ハクセキレイの餌食になってしまいました。

 黒須田川の川べりは、ハグロトンボ、シオカラトンボから赤トンボが主役に変わって来ました。

 町中や列を正して赤蜻蛉

       一茶『文政句帖』

 トンボは『日本書紀』や『古事記』で歌われ親しまれて来ました。その中の「赤トンボ」は、日本では20種以上います。童謡「赤とんぼ」に登場するトンボは「アキアカネ」と言われています。

 トンボは棒の先に止まる習性があります。気にいった棒があると、その棒に戻って来ます。写真を撮るには、逃げられた棒で待っていると、その棒に戻って来ます。

 雄は赤く、雌は橙色をしています。 

   

          

 6月頃から9月にかけては「ナツアカネ」と「アキアカネ」が混じって飛んでいます。その見分け方については・・

 飛んでいる時は見分けずらいですが、丸印のところに黒い帯が3本あり、その真ん中の黒い帯が横に切れていれば「ナツアカネ」です。

  

 切れ方が尖っていれば「アキアカネ」です。

       

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 今年は、黒須田川に、たくさんのアキアカネが飛来しています。次の写真には、アキアカネが9匹写っています。

 アキアカネの生態は、秋に田んぼや池に産卵し、春になるとヤゴが誕生。6月頃から羽化します。暑さに弱いので、夏は涼しい高原で生活し、秋になると鮮やかな赤色となって里に戻って来ます。

 危険でないと分かると羽を下げる習性があります。

 蜻蛉の赤いべべきたあれ見さい

          一茶『七番日記』

 寒さに敏感なのでしょうか。先日の冷え込みでアキアカネの数が一気に減りました。

 うろたへな寒くなるとて赤蜻蛉

          一茶『文化句帖』

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 日本では、田圃の神様の化身と考えらえて縁起が良いといわれているトンボ。西洋では、トンボは「dragonfly」と呼ばれ、龍が邪悪な存在で災いをもたらすと言われ、縁起が悪いと言われます。また「魔女の針」とも呼ばれているそうです。

 『イソップ寓話集』岩波文庫には、トンボが登場していません。よく知られている「アリとキリギリス」のお話が、いろいろな昆虫に変わったりしています。トルストイ寓話では「トンボとアリ」となっているそうです。

 ルナールの『博物誌』には登場します。トンボの特徴である大きな目玉について「彼女は眼病の養生をしている」そのために川べりをあっちの岸へいったり、こっちの岸へ来たりして、腫れあがった眼を水で冷やしているのだと・・

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 万葉時代から親しまれてきた「アキアカネ」は、地域によって数が減ってきているそうです。減少の理由は、地球の温暖化、農薬、米を作るのをやめた田圃が増えたことにより、産卵する田圃がカラカラに渇き産卵できなくなり、トンボが住みにくくなってきているといわれます。

 その状況の中でアキアカネを大量に羽化させるために取り組んだ農家の人がいます。そのことが書かれた本が、第61回日本児童文学協会賞を受賞した『万葉と令和をつなぐアキアカネ山口進(文・写真)2020年9月・岩崎書店で、小学校高学年対象です。 

 本で紹介されている農業人は、新潟県柏崎市の内山常蔵さんです。常蔵さんの有機栽培による米作り、特に水入れと水切りの時期を大事にして、アキアカネの産卵と羽化を助ける取り組みの成果が書かれたドキュメントです。最近は、トンボ獲りをする子供が少なくなっているそうですが、トンボの世界を覗く、良い本であるように思います。

 黒須田川周辺には、貯水池があり、小さな水たまりも出来ています。また黒須田川は水量が少なく流れが緩やかで、浅い水たまりも出来やすいですが、トンボたちの産卵・羽化の環境としては十分ではありません。しかし、今年もアキアカネが川面を飛び交ってくれました。この環境を大切にしていきたい。

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 百尺の竿の頭にとんぼ哉

       一茶『八番日記』

 「百尺の竿頭一歩を進む」という禅宗の教えがあります。悟りの境地に到っても、尚さらに、それを徹底させるという。

 この句は、『八番日記』に載っており、晩年の一茶が仏教の修行として取り組んでいる姿が強く表現されているように思います。

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