黒須田川は、秋の色の装いが始まりました。川面から吹き上げる涼風が、キンモクセイの甘くふくよかな香りを運んでくれます。
川面には、ソメイヨシノの葉っぱが描くオブジェ。
遊歩道には、黄金色の銀杏の実で飾り始めました。しかし踏まれて発する強烈な匂いは、避けて足早に通り抜けたくなります。
幼鳥であったカワセミも、立派な成鳥となりました。
黒須田川の唯一の柿の木。今年は、実の付きが悪かったようです。やっと1個見つけることが出来ました。
高枝や渋柿一つなつかしき
一茶『七番日記』
コンクリート護岸から自生した柘榴の木は、赤い大きな実を沢山付けました。
紅の舌をまいたるざくろ哉
一茶『八番日記』
百尺の竿の頭にとんぼ哉
一茶『八番日記』
モンキチョウ(左が雄、右が雌)
けさ秋と合点でとぶかのべの蝶
一茶『七番日記』
秋の鳥を表現する季語の中に「色鳥」があります。「色鳥」が、なぜ秋の季語となったのか不思議に思います。秋は草木の紅葉や美しい鳥が多いからでしょうか。調べて見ると「色鳥」という言葉は、江戸時代の梅翁著の『俳諧無言抄』に、次のように記載されていました。
「色鳥 秋也。色々の鳥也。春山中にかえりて、秋又来也」信大・医短・紀要・Vol.8.No.1.1982より引用
春の囀りに対して、秋は色彩の美しさを愛でて名づけられたのでしょう。また秋には、いろいろな鳥が渡来することから「色鳥」は「渡り鳥」のことではないだろうか。
渡り鳥には「夏鳥」「漂鳥」「旅鳥」「冬鳥」に分けられます。「夏鳥」は、夏の間は日本で繁殖し冬には暖かい地方に越して行く鳥で、身近な鳥では「ツバメ」「雁」などです。「漂鳥」は、日本の中で季節的に移動する鳥で、モズなどです。「旅鳥」は、春秋の移動の途中に日本に立ち寄る鳥で、シギや千鳥などです。「冬鳥」は、秋から冬にかけて渡来し春に日本を離れる鳥で、ツグミ、ジョウビタキなどです。
内田清之助の本『渡り鳥』築地書館・1983年11月刊によると「迷鳥」という鳥がいるそうです。渡りの途中で嵐に会ったり、方向を誤ったりして来るべきところではないところにやって来る鳥だそうです。
「渡り鳥」は、春にどこからともなくやって来て、秋にどこへともなく去っていく。この習性を前著『渡り鳥』の中で「月の世界へ飛んで行く」とロマンティックな伝説が書かれています。伝説とは言え、分からないことが多い鳥を神秘的に表現するのはいいですね。
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この大きな柘榴のが弾ける頃に・・
未だ青いピラカンサの実が赤く熟する頃に・・
ネズミモチの実が黒熟する頃に・・
今年も黒須田川に、冬鳥たちが飛来します。
美しい「イソヒヨドリ(雄)」
「ジョウビタキ(雄)」
そして「ツグミ」。
ツグミは、戦前はシベリアから飛来してくる途中でカスミ網猟で捕獲され食用にされていました。「忘れめや顔をそむけし焼きつぐみ」と詠まれるなど、この風習に心を痛めた人もいました。しかし今は捕獲禁止となっています。
ツグミは、美しい声で鳴く鳥であることは知られていますが、渡来する冬には鳴かないそうです。「鳴かずに口をつぐんでいる」ところから和名がついたそうです。
只一人だまりこくつて渡り鳥
一茶『文政句帖』
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