珊瑚樹

 連日、真夏日が続くなか、秋の七草が咲き始めたという声が聞かれました。

 そんな秋の兆しが少しづつ感じられる中、黒須田川の遊歩道には、赤い葡萄の房のように赤い実が鈴なりになっている木があります。

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 その木は「珊瑚樹(サンゴジュ)」です。

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 「珊瑚樹」は、関東地方南部以西の海岸近くの山地に自生する常緑の木です。夏ごろになると果実が赤く熟し、その赤い実を海の珊瑚に見立てて珊瑚樹と呼ばれています。

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 東京都・台東区の記念碑の案内で知ったのですが、台東区谷中にある「幸田露伴居宅跡」には、露伴が居住していた頃からあったという珊瑚樹があるそうです。今は途中から折れていますが、台東区の景観重要樹木に指定されています。

  「珊瑚樹」は、庭木としても植栽されますが、防火、防風、防音樹としても知られています。幸田露伴は、珊瑚樹を防火樹として植樹したのだろうか。

 私の家の近くの団地の垣根にも使用されていました。交通量の多い道路側や駐車場の防音として植えられています。

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 赤い実は鳥も目につくかきね哉

         一茶『文政句帖』

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 自然主義文学の代表的な作品である田山花袋の『田舎教師新潮文庫を読むと、植物がおよそ百種類ほど出てきます。その中で「珊瑚樹」については・・小学校教師林清三が赴任し役場を訪ねる途中の小川屋(そば切うどん屋の庭の珊瑚樹について「垣の隅には椿と珊瑚樹との厚い緑の葉が日を受けていた・・」と、珊瑚樹の葉の特徴を描写しています。

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 珊瑚樹の葉は、質が厚く光沢があります。材には水分が多く含み、燃やすと泡を吹きます。それが火の延焼を防ぎます。地方によっては、この木を「アワブキ」と呼ぶそうです。

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 4月頃は、こんな青い実でした。

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 夏ごろには赤い実に成熟。

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 赤い実は何の実かそもかれ木立

         一茶『享和句帖』

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 赤い実の毒々しさよかれ芒

        一茶『享和句帖』

 この句が詠まれた時期は、父を亡くした頃で、派手やかな赤い色は、馴染めなかったのだろう。

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 木の実が赤くなるのは、鳥たちに見つけやすくするためです。鳥の視覚は人間に似て赤い色は分かるそうです。この赤い実は美味しい味がするのでしょうか。

 この珊瑚樹の付近に飛来するのは、ムクドリヒヨドリツグミです。

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 知らない間に食べられていました。

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 鳥たちが食べない実は、だんだん黒紫色になって落ちてしまいます。

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 樹木にとっては実が落ちる前に食べて欲しい。そして遠くへ種子を運んでもらいたいのです。

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 赤い実も少し加味して散木の葉

           一茶『自筆本』

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