五月の蝿は「うるさい(五月蝿)」のでしょうか。
五月には発生する蝿が多く、この字が当てられたのでしょう。
「蝿」と言えば、衛生上からみると不潔の対象、嫌われ者の代表で、現れるとすぐに追い払う人が、ほとんどではないでしょうか。
衛生管理が行き届いている都会生活では、蝿を見かけることは少なくなりました。たまに現れると・・
芥川龍之介の「庭土に皐月の蝿の親しさよ」の句ではありませんが、不潔な蝿が、清潔な家の中にいることの不思議さに、何とも言えない親しみを感じたりします。
国内に、蝿は約3000種棲息しているそうです。そのうち100種は衛生害虫と指定されており、感染症を媒介すると考えられています。
日頃よく見る蝿は、4種類ほどで、生ごみや動物の糞などで繁殖する「イエバイ」です。ほかに「クロバエ」「ニクバエ」「コバエ」などがいます。
この蝿は、3月の暖かい日に窓のレースのカーテンにしがみついていました。逃げ足の速い蝿ですが、この日は、やや動きが鈍く捉えることが出来ました。種類はイエバイかな。
「蝿」は夏の季語です。一茶は「蝿」について100句ほど詠んでいます。
ちなみに芭蕉は、1句「うき人の旅にも習へ木曽の蝿」、蕪村は6句ほど詠んでいます。
その他に「蝿」を詠んだ俳人が多いのには驚きました。
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一茶が、俳句的にあまり好ましくない蝿を含めた小動物を取り上げているのは、小さい生命への優しい眼差しと愛着感によるものですが、自分の育った環境の影響も大きく、継子という負の意識からくる、つまり憎まれ、虐げられるものへの同情からくる愛隣の表現でもあると言われています。
一茶の句を、国文者・川島露石氏によれば「一茶は主観を極端に客観描写に利用しえた人だといえる」(『一茶俳句新釋』より)と述べています。
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100句の中で、代表的な句が・・
やれ打な蝿が手をすり足をする
『八番日記』
拡大したので鮮明ではありませんが、手(前足)をすっているように見えます。
蝿は、なぜ手をするのかというと、蝿の手足は味覚を感じる感覚器官の働きをしているため、感覚を研ぎ澄ますために、手をすって付着物を落としています。
この動作を「命乞い」をしている姿ではないかと言われています。
こんな句も詠んでいます。「命乞い」というよりも「拝む(念仏を唱える)」姿にも見えます。
堂の蝿数珠する人の手をまねる
『八番日記』
蝿の名前の由来は「羽ふるう」「羽が這う」からの変化。「手をすり合わす動作(拝)」が変化して「ハエ」になったとか、諸説あるようです。
都市では、蝿を見かけるのは、庭などの屋外が多いのでしょう。
その蝿の声を聞くと・・
打て打てと逃て笑う蝿の声
『文政句帖』
蝿を叩かない・・一茶の優しい眼差し・・
留主にするぞ恋して遊べ庵の蝿
『七番日記』
とく逃よにげよ打たれなそこの蝿
『文政句帖』
むれる蝿皺手に何の味がある
『文政句帖』
蝿と戯れる、こんな動物たち・・
口明て蝿を追ふ也門の犬
『八番日記』
なぐさみに猫がとる也窓の蝿
『文政句帖』
蝿打ば蝶もこそこそ去にけり
『八番日記』
鶏が下手につむ也もちの蝿
『文政句帖』
子供や老輩の世界にも・・
小童に打るる蝿もありにけり
『七番日記』
老いの手や蝿を打さい逃た迹
『八番日記』
私が一番好きなのは・・
寝すがたの蝿追ふもけふかぎり哉
『父の終焉日記』
重篤な父が寝ている姿を前に、蝿を追うのも今日限りだろうと詠んだ句です。
私も母の死を看取ることが出来なかっただけに。この句は心に響くものがあります。
連句でも・・
一茶の連句は、二百五十巻もあります。
蝿打て(歌仙)文化3年6月『一茶全集第五巻』
蝿打てけふも聞也山の鐘
『文化句帖』
この句は、文化3年房総を行脚中の作ですが、これを発句として夏目成美亭で36歌仙を巻いています。
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象嵌瓢形花入
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