脇障子

 黒須田川の遊歩道の桜は、強い南風に煽られても散らずに咲いています。止まっているのは、カワイヒワかな?

 川面は花筏ではなく、花の絨毯になっています。

 若葉の中にはカワセミ夫婦が・・葉が茂るとこんな光景も見られなくなってしまいそうです。

 散歩が楽しい気候になりました。いつもの散歩道から少し外れた道を歩きました。早渕川の上流近くの小高い丘にある古刹・平川神社を訪ねました。

 創建された年代は分からないとのこと。案内板の由緒によると「往古神猿があらわれて田畑を害すること甚だしく、村民一致して、その霊を祀ることにより豊穣平和を得たと伝わる」と書かれていました。この村の鎮守様だったのでしょう。

 社殿には、豪華な彫刻が施されています。正面の向拝の梁には、二つの龍が向き合った姿が精緻に彫刻されています。

 外部の欄間は、埃を被っていて見難い状態ですが、松、鳥、花、獅子や龍などの見事な彫りが随所に見られます。

 木鼻の獅子の彫刻も豪華です。「木鼻」とは、柱と柱のつながりを強固にするために、柱の端の部分が飛び出す形になっています。その柱の端を獅子の彫刻で飾られています。

 社殿には縁側があり、突き当りには仕切られた板があります。それを「脇障子」と言います。室町時代後期以降に、脇障子には人物や鳥獣などの様々な題材が彫り込まれています。絵や彫刻がない場合は、柾目の板障子になっています。

 社殿の左の脇障子には、今にも獲物を狙っている大きな「鷲」が透かし彫りされています。

 これは裏側です。

 右側の脇障子は、塞がれていますが「鷲」の透かし彫りがあります。

 こちらは天に向かって羽ばたこうとしている大鷲です。松の幹をと捉えた鋭い足は猛禽類の力強さを感じます。

 「鷲」と「鷹」との違いは、生物学的には区別はなく、大きさで見分けています。比較的に小柄なものを「鷹」、大柄なものを「鷲」と呼びます。[ 鷲 >鳶 >鷹 >隼 ]と言えるのでしょう。

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 社殿の彫刻は、格の高い大きな神社などではよく見ることが出来ますが、小さな神社に、このような見事な荘厳精緻な彫刻世界が残されているのは、名工の技と氏子の財力と心意気によるものでしょう。現在、彫刻を含め建物の痛みが激しく、出来れば早く補修して保存されて欲しいと思います。

 「脇障子の鷲」は、「クマタカ」ではないだろうか?と調べてみると『神奈川の野鳥』日本野鳥の会神奈川支部有隣堂刊・昭和55年5月 「丹沢でノウサギをしっかりと掴んだ「クマタカ」が舞い上がった」という記述がありました。この周辺は、往古から鷲や鷹が棲息していた森林地帯であり、餌さとなるノウサギなどが多く棲息していたと思われます。

 「クマタカ」は、鷲並みの大きな鷹です。鋭い顔、羽を広げた時の縞模様は美しい。今は絶滅危惧種に指定されています。

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 都会では鷹に出会うことは、ほとんどありません。鷹の嘴によく似た可愛いモズにはよく出会います。

    

 このモズは黒須田川によく飛来し、時には人家の傍にも現れ、人なっこい仕草をします。

 このモズが猛禽類なのか?どうかは意見が分かれます。20cmほどの小さなモズが鷹狩りに使われたという記録があるそうです。モズの潜在能力を引き出した鷹匠の技術も凄いと思います。

 また「モズの巣から鷹が生れる」という諺があります。これは「郭公の托卵」のことで、モズの巣から鷹のような縞模様のある郭公の雛が巣立ちすることを言っています。

 鵙の声かんにん袋破れたか
           一茶『七番日記』
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