本箱(8)

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 萩焼の達人と言われる原田隆峰著の『木葉天目の謎(書肆侃侃房・2011年5月刊)を読みました。

 「木葉天目」とは、木の葉の模様を器に焼き付けた焼き物のことを言います。

 この焼き物は、南宋時代、中国江西省の吉州窯で作られましたが、奇跡に近いような偶然によって生まれたようです。そのため決まった焼成法がなく、謎の多い古陶磁といわれています。

 この本では、「木葉天目」の開発に向けて、老陶工が命をかけて取り組む姿が描かれています。

  物語の前半の青磁を焼く登り窯の様子は、焼成経験のある私には緊迫感をもって伝わってきました。

 その念願の青磁も完成し、晩年は弟子に譲ります。

 しかし吉州窯の赤土で出来る黒陶の評価が青磁白磁より低いので、何とか評価を変えたいと思っている時、風で乾燥中の器に木の葉が入ります。木の葉は綺麗に納まりました。

 「木の葉の付いた黒陶を作りたい」と老陶工は、色々と試行の繰り返したり。中国の主な窯場を訪ねますが、決め手は見つからず。

 でも夢でのお告げか?『灰にして使え』という声が・・それがヒントとなり「木葉天目」は完成します。

 80歳近い老陶工の焼き物に挑む、凄まじい生き様と執念には驚きました。

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 こんな苦しい開発の過程を得た「木葉天目」。今では温度の安定した電気窯で、多くの陶芸家が制作しています。またプリント印刷(下絵転写紙など)で簡単につくれるようになって来ています。

 日本では、昭和15年ごろ、人間国宝・石黒宗麿が苦心して「木葉天目」を再現したと言われています。

 平成27年12月、渋谷の松涛美術館で『石黒宗麿のすべて』展があり、「木葉天目」を観ました。宗麿の作品は、葉が縮れていますが、それが自然の趣となっているように思います。

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 揚土にくつ付初る木の葉哉 

         一茶 『文化句帖』

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 私は20年前に陶芸教室で作りました。

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 口径:10.0cm・高さ:3.6cm

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 この虫食いのように見えるのは、灰となった葉を定着させる時に失敗したものです。

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 口径:16.0cm・高さ:4.8cm

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 口径:11.7cm・高さ:6.6cm

 茶碗の傾斜のある見込みへの定着は難しかった。

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 <制作メモ>によると

 一番重要なのは、木の葉に含まれる「珪酸」の量です。

 珪酸を多く含んでいるのは「ムク」の葉だそうですが、私は家の近くの「ケヤキ」の生の葉を使いました。 

〇木の葉(ケヤキ)を、素焼きの板に挟んで500℃で焼成(板に挟むのは、葉は焼くと丸まるので、それを防ぐため)

〇素地(器)を本焼きする(今回は天目釉)

〇本焼きした器に、灰となった葉をCMCで定着させる(この灰となった葉をピンセットで素地に移します。この作業が一番神経を使いました)

〇1160~1180℃で本焼き(酸化焼成

 こんな手順で制作したと思います。

 現在は、もっと簡単な方法で制作されているのかも知れません。

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