出逢う愉しみ

 やっと春の兆しが訪れそうです。春は、いろいろなものが芽生え、活動を始め、出逢いも多くなりそうです

 先日、2つの美術館に行って来ました。一つは東京・丸の内のKITTEビルの中にあるインタメディアテク(IMT)美術館です。この美術館は、旧東京中央郵便局の改修に伴い、2013年に作られた美術館です。地下鉄丸ノ内線東京駅の地下通路から直接行ける便利な場所にありました。

 地下通路の柱には、珍しい美しい鳥たちを描いた展覧会のポスターが並んでいました。展覧会の名は、IMT開館十周年を記念しての特別展示で「極楽鳥」です。

 今回、始めて訪ねる美術館。入ると一瞬、幻想的な暗い夜の世界に引き込まれます。そして夜の鳥フクロウが迎えてくれます。ここから美しい鳥と宝飾品の出逢いが始まります。流れに乗って朝の鳥、昼の鳥、最後はファンタジーの鳥へと、鳥の変遷に併せて宝飾の世界に誘ってくれます。

 ジュエリーのモチーフとなった貴重な鳥の剥製標本が、随所にライトアップされており、近くで見ることが出来ます。

 ガラスケースには、19世紀半ばから20世紀半ばに亘って製作された鳥を象ったジュエリーの歴史的な名品が光り輝いていました。

 人間は古来から空への「憧れ」があり、大空を自由に飛び回る鳥の姿には、特別のものに見えたのでしょう。そして鳥は神話や伝説に登場したりします。その憧れの鳥を象ったアクセサリーを身に着けことは嬉しいことです。

 展示タイトルが「極楽鳥」としたのは、鳥類の中でも魅力的な極楽と名の付く鳥を紹介しながら、鳥を巡る学術と芸術の対話を楽しんでもらうことを意図したそうです。

 自然が生んだ鳥の造形の美しさと最高の技術を施して生まれた宝飾品、それを作ったアーティストの眼差しや技術には驚きました。私にとって宝飾品は、それほど身近なものではありませんが、好きな鳥の造形を見ることが出来たのは、良い出逢いでありました。

 今回は、美しい鳥の標本が選ばれていましたが、「カワセミ」も美しい種類が多くいます。極楽鳥の世界に入るのではないでしょうか。

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 鳥の剥製標本は、工芸品のみならず絵画にも影響を与えています。浮世絵に魅せられたゴッホが、1887年頃に描いた「水辺のカワセミ」は、剥製を見て描いたのではないかと聞いたことがあります。その作品が・・ 

「ファン・ゴッホ  巡りゆく日本の夢」展のカタログより・2017年10月・青幻舎刊

 また画集を調べているうちに、500年以上前に描かれた雪舟水墨画翡翠図」に出逢いました。こちらは色がないカワセミですが、色より動きに特徴があったのでしょう。「拙崇筆」と書かれていますが、「拙崇」は「雪舟」と名前を変える前の名前です。

雪舟」没後500年特別展・2002年より

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 もう一つの美術館は「セタビ(世田谷美術館)」です。 この美術館には何度も訪れています。

 田園都市線用賀駅北口から「世田谷美術館」までは、暖かい日差しの中を歩きました。用賀プロムナードは、淡路瓦のブロックが敷き詰められた遊歩道になっています。私はこのいぶされた淡路瓦色の遊歩道を歩くのが好きです。このブロック道には百人一首が刻まれています。鳥に因んで清少納言の歌に出逢いました。

  夜をこめて

   鳥のそら音は

    はかるとも

  よに逢坂の

    関は許さじ

 ここに登場する鳥は「ニワトリ」です。

 環状8号線を渡ると広大な砧公園です。今は梅が見ごろでした。

 交通量の多い場所ですが、静かで梅の香りに混じってメジロの鳴き声が良く聞こえました。

  あなかしこ鳥にしらす梅の花

        一茶『化五六句記』

 展覧会のテーマは「わたしたちは生きている!セタビの森の動物たち」です。世田谷美術館ののコレクションから、様々な手法で表現された動物(100種以上が登場)の作品が展示されており、これらの作品との出会いを愉しむ構成となっています。

 その中に鳥類学者の内田清之助花鳥画の短冊コレクションがありました。内田清之助は、文学や絵画にも造詣が深く、このブログでも何度も紹介して来ました。短冊はコレクション300点ある中の42点が展示されていました。

 その中にカワセミの絵に出逢いました。その作者は「生川九春」で生没不詳。調べると『平安人物志嘉永5年版)』によると、京都出身の南画家でした。

 その短冊のカワセミは紹介できませんが・・太い蔦の枝に嘴を上に向けて止まっている可愛らしいカワセミです。私が撮った黒須田川のカワセミのポーズによく似ていました。

 この時代は、剥製などなかったと思われます。川辺で実物をじっと眺めながめ、動きなどを観察して描いたのではないでしょうか。

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 今回は、いつも疑問だったこと。「カワセミは飛び込ん水面の位置と、ほとんど同じ位置から飛び出してくること」です。飛び込む行動は一瞬で、水中でどんな行動をしているのか分かりません。水中がよく分かる日を選んで観察してみました。

 先ず餌に向かって飛び込みます。

 餌を獲ると羽を広げるようです。

 その後、羽を閉じ、その場で激しい動き?この動きは、身体がどうなっているのかよく分かりません。回転して方向転換するのかな。

 水滴の飛ぶ状態からみて、激しい回転をしているように見えます。

 頭と胴が180度違っています。首の回転力の強さがあります。(大きな魚の獲った時は、首を回転させて魚を石に叩きつけて殺します)

 瞬時に正常に戻り、飛び立つ体勢になると羽を広げます。

 そして飛び上がります。

 この一連の動作が「あっという間」に・・一瞬のうちに行っています。この行動は写真でしか捉えることが出来ません。使用したカメラの性能、そして私の撮影技術では、これが限界でした。詳細な捕獲行動は専門家に譲りたいと思います。

 カワセミは美しい色をした鳥、そして他の鳥には見られない離れ業を持っています。写真でしか見られないカワセミとの出逢いでした。

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