ペアリング

 先日、東京・お茶の水のECOM駿河台で開かれている「野鳥写真展」を観に行きました。何十年ぶりに来たJR御茶ノ水駅に降りて、多くの高層ビルが立ち並んでいるのに驚きました。ニコライ堂もビルの中に埋もれていました。

 お茶の水周辺は、多くの大学や専門学校が集まっている学生街として知られていますが、この日は、お茶の水ソラシティプラザで「古本市」が開かれていました。

 私も若い時は、このお茶の水から隣接する神田神保町古書店街まで歩いた記憶があります。

 「ECOM駿河台」は、JR御茶ノ水駅から歩いて5分の所の高層ビルの谷間の一画にありました。

 緑の木々が茂った中に、鳥籠を想像させるガラス張りの開放的な建物で、2012年春に環境コミュニケーションスペースとしてオープンされました。

 開催されていたのは、日本野鳥の会東京が主催する「東京近郊の自然再発見・野鳥写真展」です。入口を入ると、天然素材のヒノキの階段、昇った2階の展示ホールの内装も木の香りがいっぱいでした。「日本野鳥の会」は「野鳥も人も地球のなかま」を合言葉に1934年に創立されました。

 太陽の明るい光が溢れるホール。

 写真には短いコメント、撮影地などが紹介されています。どの写真にも東京近郊の鳥たちの姿が生き生きと撮らえられていました。鳥を眺める愛鳥家の姿が浮かんで来ます。

 一羽一羽の鳥は図鑑のように精密で美しいのですが、この鳥たちが棲息している自然環境や東京近郊の風景なども知りたくなりました。

 その中で興味を惹いたのは、ボケて美しい写真とは言えませんが、A4の紙にコピーされた鳥たちでした。 

 今回、見学できませんでしたが、隣の本社ビルの屋上庭園の餌台と水場に飛来する野鳥たちを撮らえたものです。私たちの家の近くにいる鳥がほとんどで、恵まれた自然環境でない大都会の中で生きているのです。「ヒメアマツバメ」が観察されるなど、いろいろな鳥が飛来しているのに驚きました。

 案内書によると「駿河台ビルの緑地は、野鳥が皇居と上野の不忍池の間を往来する際の中継地点としての役割を果たすことで、野鳥の生態域を広げ、都市における生態系の回復を図る」という生物多様性に配慮されているそうです。

 ECOM駿河台の前庭緑地は、広くはありませんが、喧騒から逃れて一時、仕事の疲れを癒してくれる緑のオアシスになっています。ここには38種類の植物が植えられているそうです。

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 私の住む神奈川県でも、自然保護、自然と人間の共存する社会を目指した日本野鳥の会の活動が行われています。最近知ったのですが、元平塚市立博物館長の浜口哲一さんが提唱された「トコロジスト」です。その内容は箱田敦只日本野鳥の会普及室)さんの本『トコロジスト』日本野鳥の会に詳しく紹介されています。

 「トコロジスト」とは「トコロ(所)」と「ジスト(~する人)」とを組み合わせた造語で「その場所の専門家」という意味です。「野鳥や植物など特定の分野だけでなく、その地域の地理や地質、歴史や文化など幅広い分野に興味を持つ人」のことだそうです。

 私の住む隣りの町・美しが丘では「トコロジスト養成講座」が開かれ、「たまプラ遺産MAP」が作られるなど、地域の自然を守る活動が少しづつ進められています。

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 私は「黒須田川」周辺を、ほぼ毎日散歩して2年以上になります。黒須田川の四季の風景、生き物や植物など、そして地形、地質などをブログで紹介して来ました。まだトコロジストまではいきませんが、黒須田川の「生きもの地図」でも出来ればいいのですが・・

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 今回は、黒須田川周辺に棲息する小さな生き物たちの命の繋がりを眺めて見ました。「黒須田川のペアリング(交尾・配偶行動)です。

 美しく戯れあっているアゲハチョウ。どちらが雄で、どちらが雌なのだろうか。雄と雌は、お互いにどう知るのだろうか。

 『チョウはなぜ飛ぶか』日高敏隆著・岩波少年文庫によると「接触化学覚」によって相手を、雄か雌かを判別するそうです。「接触化学覚」とは、昆虫の肢の先の感覚で微かな匂いも嗅げるそうです。

 蝶に限らず、昆虫たちは、触って匂いを嗅ぐ「接触化学覚」によってペアリング(配偶行動)をしているようです。

 遊歩道に鬱蒼と茂っていた雑草が刈り取られ歩きやすくなりました。しかし小さな生き物たちにとっては、生活の場がなくなりました。でも川底に生えた木々や刈られた草の中でも・・命の繋ぎのペアリング(配偶行動)が行われています。

 おわかいぞやれお若いぞ夫婦星

          一茶『八番日記』

 草枕星も一夜はありにけり

        一茶『八番日記』

 昆虫の「愛のことば」は・・「人間は互いに相手の愛をたしかめあう。昆虫たちは相手の愛ではなく、種をたしかめあうのである。」日高敏隆著『昆虫という世界』朝日文庫より

  恋をせよ恋をせよ夏のせみ
         一茶『七番日記』
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