本箱(16)

 この4~5年、草木や生き物などを描いた小説や随筆などを読むことが多くなりました。それに合わせて自然環境問題に触れた本も増えました。

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 5月27日は、アメリカの海洋生物学者レイチェル・カーソンが生れた日です。

 カーソンは、わずか四冊しか著書を残していません。その代表する本が、よく知られている『沈黙の春青樹簗一訳・新潮文庫です。

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 この本は、1962年、環境の汚染と破壊の実態について、世に先駆けて警鐘を鳴らした本です。戦後、殺虫剤として使われた「DDT」の薬害について知っている方も多いのではないでしょうか。

 地球温暖化の問題を取り上げ、話題となったアル・ゴア著の『不都合な真実枝廣淳子訳・実業之日本社文庫の中で、ゴアは、幼少の頃、母がこの『沈黙の春』を読んでくれたと書いています。『沈黙の春』は、自然環境を考えるための問題提起をした20世紀のベストセラーでもあります。

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 残念ながらカーソンは、56歳の若さで亡くなっています。

 亡くなった後、生前の彼女の夢を実現する為に、友達によって出版されたのが『センス・オブ・ワンダー上遠恵子訳・新潮社刊です。

 レイチェル・カーソンが残してくれた最後のメッセージが書かれています。

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 「センス・オブ・ワンダー」とは、神秘さや不思議さに目を見張る感性」のこと。

 カーソンは、自然、そして生命の美しさを見たり、聞いたり、触れたりなどして感じることの喜び。この喜びによって、子供たちの豊かな感性が育まれることを願っていました。この本では、甥のロジャーと一緒に、海辺や森を探索した経験を愛情あふれる言葉で綴られています。

 「この感性は、やがて大人になるとやってくる倦怠と幻滅、わたしたちが自然という力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になるのです。」(23ページより)

 カーソンは、この感性を子供たちに授けて欲しいと願っていました。そのためにも、ぜひ大人の人たちにも読んで欲しい本だと思います。

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 先日、カーソンの未公表原稿が載った『失われた森』古草秀子訳・集英社古書店で見つけました。日本で翻訳発行されたのは2000年です。

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 内容は、科学者であり、文筆家であった彼女が残した原稿と書簡を、ほぼ年代順に並べられ四部の構成となっています。そして内容は、じつに多彩で一人の偉大な科学者の精神史でもあります。カーソンの全体像を知る貴重な本の一つではないかと思います。

 その中のごく一部を紹介すると、第一部「若きカーソン」~野生生物保護への関心~1944年に書かれた「自然界の空のエース」では、神秘に満ちた「エントツアマツバメ」の驚くべき習性を詳しく観察して書かれています。

 カーソンの野生動物に対する豊かな観察力と科学的な知識の深さ、そして文章の巧みさは、若きナチュラリストの姿を身近に感じさせてくれます。

 この「エントツアマツバメ」は、日本で見られるツバメとは種類が違います。

 「エントツアマツバメ」について、私は図鑑でしか見ていませんが、アメリカ合衆国、カナダなどに分布していて、煙突を棲家にしているそうです。翅は煤のように灰褐色しています。

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 日本では、梅雨が近づくと「ツバメ」が巣作りを始めます。

 今年も、以前に紹介した田園都市線あざみ野駅の構内に帰って来ました。

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 この巣作りを、5月10日から観察していますが、2回ほど壊れました。

 一回目は、壁に上手くくっ付かず、ツバメ自身の重さで落ちてしまいました。

 二回目は、カラスに襲われて落とされました。

 襲われたツバメの痛々しい激しい鳴き声に偶然出会いました。

 その後、天敵に恐れずに、また巣作りを始めています。

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 鳥の巣や突おとされし朶に又

         一茶『文化句帖』

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