先日、ブログでアンデルセンの本を紹介しました。その時に、1964年(昭和39年)に「国際アンデルセン賞国内賞」を受賞された「椋鳩十(むく はとじゅう)」という児童文学者を知りました。
椋鳩十さんは、日本の動物児童文学のジャンルを、新たに作ったと言われています。また「母と子の20分間読書」を、全国的に広めたことでも知られています。
本名は「久保田彦穂」といますが、ペンネームが、大変にユニークです。
久保田里花さん(鳩十の孫)の『伝記を読もう~生きるすばらしさを動物物語に』(あかね書房・2019/3/15刊)によると
「・・サンガの人たちには「小椋」という姓が多いこと、ここから「椋」と付けました。住んでいた藁ぶきの屋根に毎日多くの鳩が来ることから「鳩十」と付けました。」そうです。
鳥のムクドリ(椋鳥)と関係があるのかと思っていましたが、意外や意外・・驚きました。
椋鳩十さんは、子供たちのために、多くの動物物語を残しました。
その中の『山の大将』(ポプラ社・1969年11月刊)から、私が日頃、散歩で出会う「シジュウカラ」と「カワセミ」の物語を紹介します。
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「父とシジュウカラ」(昭和23年3月発表)
鳩十さんが、少年時代に住んでいた中央アルプスと南アルプスに挟まれた山里。冬、雪が降ると庭にくる鳥たちも食べるものが無くなります。私(椋鳩十)の父は、おぼんに餌を入れて庭に置いてやります。
シジュウカラは、多い時には50~60羽がやってきます。食べ終わるとシジュウカラは体操が得意で木の枝で楽しく遊びます。餌を盗りに来るフクロウを、シジュウカラとスズメが協力して追い返えします。
ある日、父の友達が訪れます。父が、シジュウカラに20年も餌をやっていることに 「金にもならないことをしているんだね」と不思議がります。
翌朝、雉撃ちに出かけます。友人は、アルプスの山々が、朝日を浴びてキラキラと輝き変化する美しい自然を見て感激します。
父は「この自然から見たようなものを、シジュウカラから見ているんだ」と友達に話します。友達は「じゃ何をつくりだすんだ」と聞きます。
父は「美しい心さ」と言いました。
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「カワセミとにじ」(昭和34年3月発表)
太郎は、学校から帰ると妹の花子を連れて小川に行きます。
花子は、小川の杭の上に留まっているカワセミを見つけます。
カワセミは、獲った獲物を石に叩きつけた後、一飲みにするんだよと、太郎は花子にカワセミの生態を話します。
カワセミは、近くに巣があり、獲った魚を巣の雛達に運びます。
兄妹は、その様子をいつまでも眺めています。
ある日、ガキ大将の春吉が、カワセミの雛を獲りにやって来ます。
(物語の中では書かれていませんが、カワセミの生態を調べました。巣は、土の崖にトンネル状の穴を掘って巣にします。入口の大きさは、直径6~9cmほどです。奥行きは0.5~1mもあります。卵は、つやのある純白で、形は、ほぼ球形で大きさは18~24cm前後です。)
花子は、春吉に、カワセミの羽の色と腹の色が、どうして出来たかについて話し、その美しい鳥を、そっとしておいてやりましょうと言います。
春吉は、雛に餌を運ぶカワセミの愛おしい様子を見ていると、弟か妹のように可愛くなり、雛を獲ることを止めます。そして雛を守るために、巣を襲うアオダイショウを追い払ったりして雛を見守ります。
ある日、小川に行くと、成長したカワセミが、川上の崖と崖に架かった虹の橋に向かって飛んで行くのが見えました。
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2つの話は、極ありふれた日常生活の中で、生き物との触れ合いを描いた話です。
椋鳩十の家は、牧場を経営しており、少年時代は、父と猟に出かけたりして、恵まれた自然環境の中で動物と親しみながら、その動物たちの友情や愛情の世界をつかみ出そうとしたのでしょう。
「父とシジュウカラ」では、シジュウカラを通して、金や名誉よりも、もっと大切な「美しい心」を見つけています。この話には、椋鳩十さんの人間観、人生観が語られているように思います。
久保田里花さんの『伝記を読もう~椋鳩十』の「おわり」には、次のように書いています。
「生きる輝きを、生きる力となるものを伝えたい。作品はどれも、こんな祈りが込められていると思います」
椋鳩十さんの本を、多く子供たちに読んで欲しいと思います。
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