密かな告白

 最近は「密」という文字を見かけると、「3密」という言葉が、すぐに浮かぶほど身近な言葉になっています。

 この「密かな告白」と言うと、人目をはばかる秘密の出来事があったかのように思われますが・・「枇杷の木の花」に付けられた花言葉です。

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 私がいつも歩いている黒須田川の遊歩道には、いろいろな常緑樹が植えられています。その中に「枇杷の木」が1本だけあります。

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 「枇杷」は、九州などの温暖な地域で生育している木ですが、寒冷地でも、日当たりのよい場所だと生育・結実するそうです。

 黒須田川の枇杷の木も、寒波にも負けずに元気に花を咲かせています。

 葉っぱは、ぶ厚く堅く、表面は凸凹していて葉脈ごとに波を打っています。

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 この淡褐色をした産毛は、枇杷の木の特徴で花の蕾や葉の裏に、びっしりと覆われています。

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 あのふっくらとしたオレンジ色をした「枇杷の実」は初夏の果物です。しかし枇杷の花を思い浮かべる人は少ないのではないでしょうか。

 枇杷の木の成長過程によって、俳句では、枇杷の実は夏の季語、枇杷の花は冬の季語となっています。

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 花は11月頃から小さな花が固まって咲きます。遊歩道の枇杷の木は4~5mの高さであり、枝先にある花には気づかない人がいます。

 この枇杷の花については、永井荷風は、随筆「枇杷の花」の中で「・・蕾とも木の芽とも見分けがつかないほどに、目に立たない花である。八ツ手の花よりも更に見栄のしない花である」と書いています。

 蕪村の句にも・・

枇杷の花鳥もすさめず日くれたり」

    『蕪村俳句集』岩波文庫

 「枇杷の花」は、鳥でさえも賞美しない花なのでしょうか。

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 花房には、小さな黄白色の五弁の花が、こじんまりと固まって咲きます。

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 蕾が割れると優しい香りが漂います。桜餅のような香りがするという人がいますが、私は香りを感じたことはありません。

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 和名の「びわ」の語源は、葉の形、実の形が楽器の琵琶に似ているところから付いたとされています。

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 「枇杷」は、古来から民間療法にも使用されてきました。しかし「枇杷は庭に植えてはいけない」という言い伝えもあるようです。

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 枇杷の花は、目立たない佇をしていて華やかな花ではありませんが、優しく甘い香りを漂わせていることから「密かな告白」という花言葉が生れたのでしょう。

 枇杷の花は、温和で内気さの中に、ささやかな自己主張をしている花かもしれません。

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 土焼きの利休祭りや枇杷の花

    一茶『七番日記』

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 焼締花入

    高さ:23.4cm・重さ:790g

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