自然釉

  先日、2005年1月22日に公開された映画『火火を観賞する機会がありました。

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 5年ほど前に『母さん  子守歌うたって~寸越窯・いのちの記録那須田稔・岸川悦子著(ひくまの出版)という本を読み、是非観たかった映画でした。しかし、この映画を観る前に、昨年9月にオリジナル版ですが、NHKテレビ小説「スカーレット」が放送されました。

 今回、『火火』を観て、自然釉の信楽焼を復活させる女性陶芸家の奮闘。そして骨髄性白血病の息子との情愛と骨髄バンクの立ち上げと、炎のように情熱を燃やして生きる親子の姿に感動しました。もう一度、この小説を読み直しました。

 物語の中で自然釉の復活に使った窯は「穴窯」です。この窯は単室で、焼成するのは難しいそうですが「ビードロ」「灰被り」「焦げ」「窯変」などの特徴のある作品を作ることができます。

 この穴窯を改良したのが「登り窯」です。窯を数室に分けて焼成します。それぞれの室で違った雰囲気の作品を効率よく焼成することができます。焚口となる室を「胴木間」といい、この室では穴窯に似た作品を作ることができます。

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 私は、土肌に自然の釉薬で描く作品が好きで、20年近く登り窯のある教室や作品を持ち込んで焼成してもらえる窯元に、お願いをして作品を制作して来ました。

 この竹林に囲まれた登り窯は、私が毎年、焼成をお願いしている笠間の奥田製陶所・仕法窯です。

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 自然釉は、作品の置く位置、使った土の性質、燃料(薪)の種類、焼成時間の長短、気候(湿度や温度)などによって、自然釉の趣は変わって来ます。それは人智の及ばない世界でもあります。私が自然釉に拘るのもそこにあります。

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 これは窯詰めを終えた仕法窯の胴木間の内部です。一番右側(〇印)の大壺が、私の作品です。

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 3日間の焼成が終えた胴木間の内部です。倒れた作品もありますが、私の作品は倒れなかったようです。焚口側の部分は、灰と炎で焦げ、黒褐色をした溶岩となっています。 これは「焦げ」と呼ばれています。

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 反対側は、美しいビードロが流れていました。

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 美しい緑色の「玉だれ」です。

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 この瓶は、他の作品に囲まれた位置に置かれたので、口縁部分にたっぷりとビードロが被っていました。

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 ビードロと緋色が美しく出ました。長石も少し出ています。f:id:kanamankun:20201030181045j:plain

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 この縄文花入は、自然釉のいろいろな色が混ざり合って、景色を作ってくれました。f:id:kanamankun:20201030175305j:plain

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 この耳付花入は、<2016/4/1>に紹介した二度焼きの作品です。

 一回目は「焦げ」の状態でしたが、今回は「ビードロ」に変貌。焼成回数を重ねることによって、新しい景色に産まれ変わります。これが焼締めの魅力ではないでしょうか。

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 この作品(写し)は灰の中に埋もれていました。「焦げ」が自然釉と混じって窯変しています。穴窯らしい「わびさび」の雰囲気が出ました。

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「窯の火をうちとめて、やがて作品を取り出すときは神妙な気持ちになる。しかし大方は夢見ていたほどの作品が現れることはまれである。そのとき陶工は決して火の神をうらまない。自分の仕事の工程を反省するのである。千に一つ、万に一つ会心の作品が出来たときは、それを抱いておどり上がりたくなると共に、それこそ火の神の恵みだと感謝する」

 長文となりましたが、文人墨客の陶芸家・内島北朗の随筆『春風秋雨』の中の「陶工の仕事」より引用させて貰いました。

  自然が創るものには、それぞれの美しさが秘められています。特に焼き物の世界には、自然が与えてくる恵が多く秘められているように思います。

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