『ギリシャ神話』の中には、人間が鳥や動物になったという話がたくさん出てきます。その中の一つ「ケユクスとハルキュオネ」は、神の怒りに触れて「カワセミ」になったという話です。
私の住んでいる地区にある黒須田川は、カワセミが生息していることで知られています。私もカワセミの写真をたくさん撮ってきました。その写真で「黒須田川カワセミばなし」を作ってみました。
話の筋は、ブルフィンチ作・野上弥生子訳『ギリシャ・ローマ神話』岩波文庫刊を参考にしました。
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お話の舞台は、黒須田川です。登場人物?・・すべてカワセミです。名前はギリシャ神話の名前を、そのまま使用させていただきました。
最近の黒須田川は、小さな魚たちも増え、カワセミにとっては、いい餌場となっています。
この川には、仲睦ましいカワセミ夫婦がよく餌を求めて来ます。
棲家は近くの里山にあるようです。
夫は、暁の明星ヘスペロスの息子「ケユクス」です。
妻は、風の神アイオロスの娘「ハルキュオネ」です。
ある時、ケユクスの身辺で奇怪な出来事が起こり、ケユクスは、これは神の怒りだと感じ、怒りを鎮めるためアポロンの神託を伺うために、海を渡る長い船旅を計画します。
妻は、海の恐ろしさを知っているので、船旅は危険だと反対します。行くなら私も一緒に行きたいと頼みます。
だがケユスクは、妻は危険だと言って、妻を残したまま出帆しました。
涙ながらに防波堤で見送るハルキュオネは、ケユスクの無事の帰還を神々に祈ることしかできません。
ケユクスの船旅は順調でしたが、途中から天候は荒れ始めました。
荒れ狂う暴風雨の中、船は難破して砕け散りました。
ケユクスは、ハルキュオネの名を呼び続けました。そして私の亡骸がハルキュオネのもとに届き、弔ってもらえるように祈りました。
一方、ハルキュオネは、ケユスクが遭難して亡くなったことも知らず、夫の航海の無事をヘラの神殿で祈り続けます。
その祈り続ける姿を見て、女神ヘラは耐えきれず、眠りの神を使者として使わせ、ケユクスが亡くなったことを、ハルキュオネに伝えるように言います。
それを夢の中で聞いたハルキュオネは、悲しみのあまりに胸をかきむしり、上着を引き裂きました。
翌朝、見送った海辺に駆け付けます。
海の彼方を見ると、波間に浮かぶ漂流物が岸辺に近づいて来ます。
よく眼を凝らして見ると、最愛の夫ケユクスの亡骸です。
変わり果てた姿でしたが、愛する妻のもとに帰って来たのです。
その瞬間、不思議なことが起こります。ハルキュオネは、小さい鳥(ギリシャ神話では、ここからカワセミが登場です)に変身して、もの悲しい声で鳴きながら、夫の亡骸に向かって飛んでいきます。
物言わぬ夫を抱きしめると、また不思議なことが起こります。死んだはずのケユスクも、妻と同じ鳥になって生き返りました。
神々の憐れみによって、カワセミとして二人を再生させたのです。
その後、鳥になっても二人の愛は変わらず、仲睦まじく暮らしました。
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カワセミといえば、川にいるものと思っていましたが、海辺で生息しているカワセミもいるのですね。『ギリシャ神話』では、カワセミが海の波を静める海鳥として見られていたようです。
鳥となったハルキュオネが、海の浮巣で雛を孵すと、水夫たちは無事に航海ができるという伝えがあります。それは「halcyon day(ハルシオン・デー)」と呼ばれ、冬至ごろの平穏な2週間のことを言うそうです。
(注)「ハルキュオネ」は「ハルシオン」のギリシャ語読みで、「アルキュオネ」は別名です。「アルキュオネ」は「カワセミ」のことです。
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先日、黒須田川で3羽いる「カワセミ」が撮れました。
1羽は「ケユスクとハルキュオネ」の愛の結晶かな?
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1915年、 H.J.ドレーバー(1863-1920イギリスの古典主義の画家)が、「ケユスクとハルキュオネ」の話をもとに描いた「アルキュオネ」という絵があります。
海岸でケユスクを探す、ハルキュオネが描かれています。衣装の色が印象的です。その頭上にはカワセミが2羽飛んでいます。絵はインターネットでしか見ていませんが、機会があれば本物を見てみたいと思います。
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