草花(22)

 梅雨が明けたら、本格的な暑さがやって来ました。散歩をしていても日陰を求めて、ジグザグに歩き、涼を求めています。

 朝の散歩中に見つけた黄色い可憐な花が一輪、川面からの涼風にゆらゆらと揺れていました。

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 一本の草も涼風やどりけり

      一茶『七番日記』

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 この黄色い花は「雌待宵草(メマツヨイグサ)」といいます。一日花で、夜に咲いて朝に閉じて枯れてしまう儚い花です。開花しているのが見られるのは早朝です。

 なぜ夜に花が咲くのかと言いますと、マツヨイグサ属の植物は虫媒花です。そのため夏の夕刻に活動するスズメガという昆虫に受粉を頼っています。

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 この花がいつ開くのだろうか。

 『雑草のはなし』(田中修著・中公新書には、オオマツヨイグサの開花について丁寧に調べられていました。蕾は開花の日に暗くなってから開く準備をするのではなく、その前日の夕暮れから時を刻み、二つの段階に分けて支度をしているそうです。第一過程は開花前日の夕方7時頃に、スタートし6時間を経過して、この過程は終わります。その後、第二過程は、暗いままだと開花まで19時間を要するそうです。この2つの過程を得て花が開きます。つまりオオマツヨイグサは、真っ暗ならば25時間後に開花するということになります。こんな開花へのリズムが、花に秘められているのは不思議です。

 私は、開花が準備できていそうな花を選んで、夕方7時に撮影しました。

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 朝7時に行ってみると、もう咲き終えてしぼんでいました。黒須田川周辺は人家もあり、夜になっても暗闇ではなく、また街路灯などの影響を受け、開花の時間も違って来るのでしょう。

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 しかし川底で日陰となっている場所の花は、しぼんでいませんでした。

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 「メマツヨイグサ」の別名が「月見草(ツキミソウ)」だと混同している人が多いようです。どちらも同じマツヨイグサ属に分類されますが、本来は「月見草」は別の植物です。どちらも夏の夜に花が開くために混同されたのではないでしょうか。

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 大きな違いは花弁の色です。「月見草」は、夜花が開くときは白色で、夜明けとともに桃色になります。「メマツヨイグサ」は黄色い花です。

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 竹久夢二の作詞した「宵待草」は、マツヨイグサ属の一種を指すといわれています。また「ツキミソウ」を指すという説もあります。

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 夕やみのほのけき庭にうきいでて

   かすかにゆるる月見草の花

 この歌は、童謡「春よ来い」「早稲田大学校歌・都の西北」を作詞した相馬御風が詠んだものです。

 相馬御風(1883-1950・新潟県出身)は、詩人、小説家、自然主義評論家、文芸全般にわたって活躍された人です。その御風の短編小説に「月見草」があります。この短編を読むと、この歌を詠まれた心情が伝わってきます。

 蜩の鳴く、暑く重ぐるしい夕方、身内に何か悲しいことがあったのだろうか。そんな心情の中で庭の白い月見草を眺め「月見草・・蜩の音のやうな淋しい花だ」・・と書いています。

 そして御風は、小林一茶良寛の研究者としても知られています。

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 「メマツヨイグサ」は、日が昇るとともにつぼみ、儚く咲き終えます。

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 鑑賞用、園芸用として導入された「マツヨイグサ」は、土手や道路などでは雑草の扱いになるようです。

 後日、遊歩道の草刈りが行われて、まだ蕾を残していた「メマツヨイグサ」まで刈り取られ一本もなくなりました。

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 暦の上では、もう秋が来ています。

 受粉した種は、土の中に帰り、来年もこの場所で咲いてくれるでしょうか。

 相馬御風は、こんな歌も詠んでいました。

 咲きし花は散らざらめやも

 散りし花は安けく土に帰せざらめやも

      『随筆集・丘に立ちて』より

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