藪椿

 「梅」の花が散り・・

 「桃」の花が散りつつ・・

 「椿」の花も散り始め・・

 「桜」の花の季節に移り変わってきました。 

 横浜の桜の開花は、3月18日と統計開始以来、2番目に早い開花となりました。

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 玉椿夏への持越つもり哉
          一茶『文化句帖』

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 我が庭の藪椿も散り始めました。

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 花椿落来る竹のしげみ哉

         一茶『寛政句帖』

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「椿」は日本原産の植物で、古くから親しまれてきました。 藪椿は「山椿」といい、藪や山地で自生している椿を代表する品種で、一般に椿というと「藪椿」をいいます。咲いている期間も長く、冬の花ではなく早春の花(椿の字のごとし)でもあります。

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 椿の名前の由来は、葉に光沢があるから「艶葉木」、葉に厚みがあるから「厚葉木」、葉っぱが強いから「強葉木」、落ちた葉が刀の鍔に似ているから「鍔木」などの諸説があるようです。

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 これは「紅乙女椿」で「藪椿」とは少し異なります。栽培種のように思われますが、江戸時代か愛されている品種の一つです。

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 真冬の寒風にも凛々しく咲いている真っ赤な花を見つけた時は感動します。

 椿は焼き物の絵柄でも好まれ、よく描かれています。北大路魯山人の『色絵金彩椿文鉢』は、よく知られています。

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 焼き物では、絵柄以外にも「椿手」という言葉を使います。

 この「〇〇手」とは『茶道辞典』桑田忠親編)によれば「同一系統、または同一素質、同一形状のものである場合、何々手」と言います。「椿手」とは「土味は薄浅黄色の肩衝形で『茶器弁玉集』には椿手の名は椿の花が散らないのと同じように、釉の散っていないものをさす」と書かれています。

『原色陶器大辞典』加藤唐九郎編)では、「椿手」とは「柿色釉に線刻の文様を掻き落とし、その文様を黄瀬戸釉で象嵌したもの。六角形のぐい呑みなどにこれがある」と記されています。

 この「手」は、主に茶入、茶碗、花入などに使われますが、一番多く使われているのが「茶入」です。

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  この『瀬戸物と美濃瀬戸』井上吉次郎著(工政会出版部・昭和7年発行)は、ジャーナリストで社会学者の井上吉次郎さんが、瀬戸、常滑の古窯群を発掘した時の紀行文です。

 その中に「椿手」について触れたところがありました。

 「東椿、西椿に分かれるが、馬ケ城の中心点と思われる。ここだけに椿の密林あって、まだ花が梢に残っていた。・・淡青及び茶色を帯びる所謂「椿手」といはれる瓷器がみられる。」「椿窯に作陶の種類は頗る雑多であるが、薄青の瓶と瓶子が圧倒的に多かったらしい。」また「椿手式焼締めに混じって、無釉薬の平皿に薄青の灰被りをみて・・後の黄瀬戸はこれに端緒があると思ふ」とも書かれています。

 椿窯の銘々は、この椿の木から来ているのでしょう。この地は黄瀬戸が生れた場所でもあり、黄瀬戸の「あぶらげ手」は、この椿の木の灰を釉薬として使われ、何らかの作用をしたのかもしれない。

「椿窯」は、前記の辞典によると瀬戸古窯の一つで、瀬戸市の東北拝戸の山林中にあった同地の最古の窯と伝えられています。

 その場所は瀬戸市の近くです。

『瀬戸物と美濃瀬戸』の中の窯跡地図から引用しました。

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 また椿の木は太古の霊木で、長寿を祝う「椿寿」という言葉にも使われています。

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 荘子の『逍遥遊』篇の中に「上古、大椿なる者あり、八千年歳を以って春と為し、八千歳を秋と為す」という伝説があります。意味は「とても長生きするということ」で「椿寿」は、110歳以上のお祝いの呼称となりました。

 世界一の長寿国と言われている日本。これから「椿寿」の方が多く増えるのではないでしょうか。

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 地元の粗目の土に藁灰釉を掛けてみました。

           (今、蓋を制作中)

 口径:4.3cm・高さ:9.9cm・重さ:210g

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