黒須田川の遊歩道を散策していると、飛ぶ宝石と言われる「カワセミ」に、よく出合います。カワセミは清流に住むイメージがありますが、街中の川や池で目にすることが多くなりました。
「カワセミ」を漢字で「翡翠」と書きますが、宝石のヒスイを、この鳥に当てはめたと思われていますが、実際は逆で鳥の名が宝石に転用されたそうです。
「翡翠」の「翡」は雄を、「翠」は雌を意味するようです。
雄雌の見分け方は、嘴の色の違いで、赤いのが雌、黒いのが雄です。美しい毛色は変わりません。
このカワセミは「雄」です。
柳田国男の『野鳥雑記』( 八坂書房・1986年8月刊)の中に「翡翠の嘆き」という随筆があります。
ジャーナリストで愛鳥家の杉村楚人冠(1872-1945)は、水豊かな関東の丘にある我孫子の広大な屋敷に住み、巣箱を設置して、いろいろな鳥たちを歓迎しています。
しかし楚人冠が困っているのが、池に飼っているいる金魚を狙っているカワセミです。
当初は「・・カワセミの巣は初めてである。あの美しいカワセミが我が家の池のほとりに巣をかまえて雛を養うなどは、如何にもわが山家ずまいにふさわしい。池の魚を食われても、しばらく様子をみよう」(『湖畔吟』より)
と思っていましたが、ある会合の席でカワセミの退治を持ち掛けたそうです。
たまたま居合わせた柳田は、カワセミが赤い金魚を捉える「結構じゃないか、涼味横溢の美しい風情だ」とからかいます。そして対策として某大臣の鳶の話から、金魚でなくて蛙であったら、安い金魚を増やしたら、稲穂を狙う雀はどうなのかなどと話は展開。
「カワセミをとるか・・金魚をとるか・・無造作に、一方の生命を愛惜するためばかりに、他の一方の存在を憎むことはできない。仏すら取捨の裁決はお迷いなさる・・」
妙案はなく、結局は解決策は得られず「カワセミの問題は今なお未解決である。」で終わっています。
また『楚人冠と鳥』(2010年・我孫子市教育委員会発行)の中にも「翡翠の嘆き」ことが書かれています。
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私の住む横浜の黒須田川の水質は、綺麗で透明度も高いようです。カワセミの好きな魚(主にウグイ、フナ、ハゼなどの稚魚)が、どのくらい生息しているのだろうか。
こんな大きな鯉は、魚師という名を持つカワセミでも無理でしょう。
カワセミの営巣は、トンネルのような穴に巣作りをするそうですが、護岸工事で土手が少なくなり、巣穴が作れる場所が少なくなっています。黒須田川の土手に巣箱のような巣穴があるのだろうか。
黒須田川の「カワセミ」は、愛鳥家が悩む愛憎問題など気にしないで、飄逸な尻尾を振り、川面を自由に飛び回っています。
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とく霞めとくとく霞め放ち鳥
一茶『おらが春』
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この随筆の舞台となった我孫子市にある「杉村楚人冠邸」を訪ねて見たいと思います。
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<追伸>
2019年12月10日・午後3時ころ
魚を捕獲した翡翠を見つけました。
翡翠にとっては、少し大きな魚なので一度に食べられず、苦労していました。
黒須田川にも翡翠の好きな小さな魚が生息していました。