におい

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  この緑色をした虫は「チャバネアオカメムシ」と言います。

 工房に、よく現れる黒茶褐色をした「クサギカメムシ」とは違い美しい色をしています。体長は約1cmほどです。

 カメムシと言えば、刺激を与えると、あのくさい臭いを出します。

 なぜくさい臭いを出すのかは、外敵を嫌がらせる、仲間への危険を知らせる、仲間を集める、縄張りをしめす、雌を呼び寄せるためで、状況に合わせて臭いの濃度を使い分けているようです。臭いの成分は、アルデヒドが主成分の有害物質です。

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 私たちは、いろいろな「におい」の中で生活しています。その「におい」を「匂い」「臭い」や「香り」という言葉で表現します。

 生理的に嫌なものや悪いものに「臭い」「匂い」を、好ましい良いものに「香り」という言葉を使っているようです。

 ひらがなで「におい」と書くと、良い悪いではなく中間的な意味に使われます。

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 先日、古本屋でこんな表題の本を買いました。

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呉須のにおい~日本の染付の美~野村泰三著

    平安堂書店刊・昭和50年増補改訂版

  函の呉須の濃淡は少し褪せていますが、美しさは残っています。

 そしてクロス装した本体の表紙の濃い呉須は、20年以上経っても大変に美しい色です。

 本の大きさは変形大判(26cm*26cm)で、美術本らしい重厚感があります。

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 陶磁器の本で「におい」という表題は、大変に珍しいと思います。

  この表題は、有田陶磁美術館の外壁の陶板に呉須で書かれている、明治時代の象徴派詩人・蒲原有明の「有田皿山にて」(原題「呉須のにおい」)の詩碑から名付けられたのでしょうか。

 最近、街づくりを五感で表現するようです。あまり知られていませんが、2001年、環境省は、豊かな香りとその源となる自然や文化・生活を一体として将来に残し、伝えていくために「かおり風景」を広く募集して「かおり風景100選」を選びました。その中に「佐賀県のにおい」の一つとして『伊万里焼土と炎のかおり』が選ばれています。

 私は、まだこの美術館を訪ねていません。

 「呉須のにおい」は「伊万里焼のにおい」かもしれません。

 日常生活の中に浸み込んだ呉須のやきものは、日本人が感じる「やきもののにおい」の一つではないでしょうか。

 この『呉須のにほい』という本は、私にとって「本のにおい」かもしれない。

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 特に、この本に魅かれたのは、138点の壺、徳利、茶碗、皿、盃、猪口、香炉などの作品に、有名な作者の和歌、詩、俳句、短歌、漢詩、民謡、童歌、小唄、外国の詩などが添えられた構成となっていることです。

 有名な陶磁器を、こうした構成で紹介する本は、少ないのではないでしょうか。

 この中に、小林一茶の俳句が3つ紹介されています。

 江戸中期の古伊万里のくらわんか茶碗の紹介を、一茶の『文化句帖』から2句。

  『菊咲て朝梅干の風味哉

  『菊咲や赤袖口も日のさして

 もう1つは、初期伊万里のくらわんか皿(径:15.7cm)で、『八番日記』から

  『おく霜の一味付し蕪かな

 どんな茶碗なのか、皿なのか、想像する楽しみがあります。

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 この「輪花なます皿(径:14.8cm)」は、骨董市で購入したもので、制作年代、場所はよく分かりませんが、私の好きな呉須の皿の一つです。

 当時(明治~昭和初期?)、この絵柄(芦に波)は、たくさん作られたようで、人々の好みにあった商品の一つではなかったかと思われます。

 『呉須のにおい』では、この皿と良く似た黍の絵に『詩経国風』の中の「王風~黍離(栄耀の移り変わり)」の漢詩が添えられてありました。

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