本箱(6)

 先日、「やきもの」関係の本が多くなり、一部を整理しました。

その中で、もう一度読んでみようと思った本が、井伏鱒二著の『焼物雑記』でした。

 井伏氏は、広島県福山市生れであり、備前焼について造詣が深いことを知りました。

この『焼物雑記』は、やきもの等について、雑誌に発表したものをまとめた本です。

  私が井伏鱒二について知ったのは、30年ほど前、広島に赴任していた時に、被爆者の取材の中で『黒い雨』の作者であること知りました。

 その後、井伏作品を読むことはありませんでしたが、広島から帰った後、陶芸を始めて、そのやきものツアーで、初めて訪れたのが備前でした。

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『焼物雑記』井伏鱒二著(文化出版局・昭和60年1月刊)

 

 この本の内容は「備前焼」「桂又三郎」「海揚がり古備前」等々。

特に興味があったのが「姫谷サヤ鉢蓋」で、初めて姫谷焼を知りました。

 姫谷焼は、江戸時代前期に広島県福山市加茂町で焼かれた陶磁器です。

 伊万里、古久谷と並んで、日本で色絵磁器を生産した場所の1つです。始まりは諸説あるようです。しかし制作されたのは20年間ほどで、1668年頃廃窯となっています。

 姫谷焼は謎の部分が多く、しかも資料が乏しく「幻の窯」と呼ばれています。

近年、発掘調査も進み、いろいろと解明されて来ています。 

 窯跡を訪れて見たいと思いつつも実現できませんでした。また色絵磁器についても、写真でしか見ていません。

「サヤの蓋」は特徴があるそうで、窯道具としては綺麗に出来ているそうです。

 窯跡は、昭和12年に広島県史跡に指定されています。機会があれば窯跡を訪ねて見たいと思っています。 

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  『日本のやきもの集成⑨山陽平凡社・1981年9月刊より転載

 淡い赤味をおびた白磁に紅のもみじ。

余白をたっぷりとった構図、その作風は清楚で気品があります。

 陶法は有田系統と見られています。色絵以外にも染付、青磁などが発掘されています。

 

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 この図柄は「葡萄文皿」の一部ですが、葉の中が白抜きになっている部分があり、複雑な技法が見られます。

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  今回、併せて中編小説『谷間』も読みました。

姫谷焼については、詳しいことは書かれていませんでした。

 物語は、姫谷焼の発掘に来た私(作者?)が、彰徳碑樹立のために姫谷村と中条村との寄付金騒動に巻き込まれる話が中心で、井伏鱒二の郷土感が強く表現されています。

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 一茶の『西国紀行』によると、寛政7年(1795年)3月、四国の丸亀から備前に、船で渡っています。「海中七里」とあり、船中で備前焼のお預け徳利で楽しんだのでしよう。この時に「姫谷焼」は、もう廃窯になっています。

 広島県内には、一茶句碑が2つあります。

静けしや

   春を三島の

       帆かけ舟

 この句碑は、尾道市向島町高見山の自然散策路にあるそうです。

一茶が詠んだのは、対岸の伊予三島の八鋼浦港(現在は名前が変わっているかも)から新居浜に向けて歩いた時に詠んだ句です。

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 備前焼は、内部に微細な気孔があるので酒がまろやかに、そしてコクのある味になるとか。

 5年ほど前に制作した、 私の愛用の焼締徳利です。

 備前の土ではありません。信楽の赤土を登り窯で焼成しました。

正月には、妻の手作りのお節料理の傍に並んでいます。

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