句碑散歩(9)信濃3

 黒姫駅は明治21年5月柏原駅として開業し、
昭和43年10月に黒姫駅と改称されました。

 この力強く、ユニークな「黒姫駅」の看板。
2011年に作られ、字体は、植村元子(書家)さんが書かれました。

   「黒」は、墨が燃えている
   「姫」は、黒姫伝説の龍
   「駅」は、馬
           を表しているそうです。

 この黒姫駅には、一茶の句碑が3基あります。


駅の正面入口(〇印が句碑)

   蟻の道雲の峰よりつづきけん   (『おらが春』)

    
    

 駅の東西を連絡する通路(跨線橋)を渡ると西口広場です。
黒姫山を背にして句碑が建っていました。


   こがらしや隣というもえちご山   (『八番日記』)


 今回、駅のホームには入りませんでしたが、
西口広場からホームの句碑がよく見えました。


〇印が句碑
     

     やれうつな蠅が手をすり足をする   (『梅塵八番』)

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 駅の東側の商店街「一茶ストリート」を歩いて見ました。
直ぐに目に付くのが、明治43年創業、登録有形文化財の「藤野屋旅館」です。
 今も営業されています。

 近代的な建物の間に、埃を被った陶器などを陳列した古い民家が
ありました。「高橋美術館」という看板が掛けられていましたが
生活されているのかどうか分かりませんでした。


 商店街にある一般の家の句碑は、道路から見える場所にあり、
道路から撮らせていただきました。

福来たる門や野山の笑顔   (『文政句帖』)   

        
        名月を取ってくれろと泣く子かな   (『おらが春』)

     
     雀の子そこのけそこのけお馬が通る   (『八番日記』)


雪ちるやおどけもいえぬしなの空   (『八番日記』)

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 柏原小学校は、平成24年3月に閉校され、小中学校一貫校となり、
古間の方に移転しました。

 廃校になった柏原小学校。左が黒姫山、右が妙高山です。
広い運動場からは、子どもたちの声は消え、何か寂びそうでした。

  

 校歌には「一茶の故郷」という文字がありました。

   はつ雪やいろはにほへとならふ声   (『七番日記』)
 生徒が来ない校門の脇には、昭和53年の校舎新築を
記念した句碑だけが残されています。

   雪とけて村いっぱいの子ども哉   (『七番日記』)

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 学校から離れて散策するとJA長野信濃町支所の前には

   いくばくの人の油よ稲の花   (『八番日記』)

 信濃町商工会の前にも。
その前にある信濃町総合会館にも句碑があるのですが、
改築中で塀に囲まれ分かりませんでした。

花の木のもって生れた果報哉   (『文政版』)

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 雲龍寺は、黒姫駅から歩いて20分ほどの所にあります。
この寺(曹洞宗)の創建は、延喜13年(913年)醍醐天皇の頃と言われます。
 境内には、一茶の句碑と一茶と交際のあった長月庵若翁の墓があります。

   

   山寺や雪の底なる鐘の声   (『霞の碑』)

 この句は一茶28歳(寛政2年)の作で最初期の句です。


 山門を入ったところに「長月庵若翁の墓碑」があります。

 堀若翁(1734-1814)は、号を長月庵といい、
肥前大村藩藩士から行脚俳人となり、
柏原宿本陣に逗留し、文化10年80歳で、
ここ柏原で亡くなり、この寺に埋葬されました。
 この墓碑は、信濃町指定の文化財となっています。

 一茶は、長月庵若翁には、幼児期に俳句の手ほどきを
受けたと言われています。
 この墓碑には、一茶の追悼句が書かれています。
夕暮れや土とかたればちる木の葉
 この句は、七番日記によれば、
『桂国仏の 三七日という日 小丸山詣る』とあるように
 一茶が、桂国の法要に来た時の追悼句です。
 案内板によると建立者が、桂国を若翁と間違って記載させたようです。

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 今回、訪ねた句碑の中に「英文碑」が2基ありました。
 一つは、前回、紹介した八十二銀行の前の英文碑です。


    Just sitting there
     a frog
      viewing the mountain


 もう一つは、黒姫駅西口の英文碑です。

  

2つとも、C・W・ニコルさんの英訳です。
ニコルさんは、1940年イギリス生まれで小説家、ナチュラリスト
1980年、長野県黒姫山麓に住み、執筆活動をされています。
 海外にも俳句の愛好家は多く、更に英文の俳句も増えて来るでしょう。

 先日、『蛙となれよ冷やし瓜〜一茶の人生と俳句
という絵本を再度読みました。


 (文)マシュー・ゴラブ・(絵)カズコ・G・ストーン・(訳)脇明子
                 2014年8月発行・岩波書店

 原題は『COOL MELONS−TURN TO FROGS!』
 一茶の俳句は「人来たら蛙になれよ冷し瓜」です。

 内容は、一茶の生涯を33の俳句を通して語られています。
そして日本の風景や動物たちの動きや仕草、草木などが
丁寧に細かく描かれた絵が、一茶の魅力を伝えているように思います。

 今回、訪ねた句碑の中、次の2句を、この絵本の英文を引用させて頂くと

  「やれうつな蠅が手をすり足をする

    『 Please don't swat!
     the housefly begs,
     rubbing its hands and feet』


  「雀の子そこのけそこのけお馬が通る

     『 Sparrow chicks ーー   
       Look out! Look out!
       Make way for Mr. Horse.』


 訳者脇明子さんの「あとがき」によると
 『 アメリカの小学校では、ぴったりした言葉を探しながら
   文を書く練習の手始めに、ハイクを勉強することが多いそうです 』

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 次回は、柏原宿を少し離れ、車で移動しながらで散策してみました。

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